今回は「双極2型の予後(9)」の続きである。また、先日の「期限ギリギリでないと動けない」も多少関係がある。(前置き的エントリ)
一連の記事の(1)から順番に読んでいくと、いったい何を言いたいのかなんとなくわかると思うよ。
ブプロピオンを服薬し時間が経つと「いざと言う時に馬鹿力が出ない」と訴える人がいる。これは非常に興味深い所見である。
広汎性発達障害系の人では、積極的な人でも消極的(内向的というべきか)な人でも、やがて全く動けない状態になりうる。「動けない」というより、「何もやる気が起こらない」とか「いつも眠く仕事にならない」などの表現をする人もいる。
極めて馬力のない、非生産的な病態を呈するようになるのである。
これは内因性のうつ病や双極性障害とは異なり、アパシー、慢性的眠さ、あるいは広場恐怖的な色彩もみられ、むしろ器質的な表現型と思う。こういう人は双極性障害と診断したとしても、広汎性発達障害のような背景も考慮すべきである。(あるいは膠原病などの内科、皮膚科的免疫系疾患。これも器質性)
このような人の診断自体は大きな問題ではない。どう治療するかの方が重要といえる。
このような病態では、抗うつ剤では、ドパミン、ノルアドレナリンを増加させる薬の方が成功率が高く、セロトニンを大幅に増やすような薬は初期は多少良かったとしても、厭世観やアパシー、あるいは広汎性発達障害的な攻撃性を増し、長期的には不調になりやすい。抗うつ剤での治療を避けるなら、ラミクタールやトピナなどの抗てんかん薬が有望である。
ドパミン、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害するブプロピオンは、このようなタイプのうつ状態には有効であるが、過去ログにあるように長期には効果が持続しない欠点がある。だから、当初はブプロピオン単剤で良かったとしても時間が経つと、気分安定化薬や他の抗うつ剤、あるいはエビリファイやセロクエルなども併用すべき状況になりやすい。
結局、このようなタイプの病態は治療に時間がかかるのである。
このブログでは、広汎性発達障害の精神症状は、たとえ新型と言える現代的うつでも治療余地があるという記載をしている。
それはよく考えて治療を進めると、ほとんどの患者さんが「以前よりはるかに良い」という表現をするからである。
今回のタイトルは、ある患者さんが普段の状態は以前よりずっと良くなったが、いざとなった時、「超人的な馬力が出なくなった」と語ったことから来る。
これは単純に考えると(本当かどうかは不明だが)、未治療の状態では、ドパミンやノルアドレナリンが慢性的に枯れているため、レセプターがアップレギュレーションを起こし、受け手側が非常に過敏状態を呈しているのかもしれない。
そのタイミングで非常事態が起こった際、その人にしては多めの神経伝達物質が放出された瞬間、脳内で非常に敏感な反応が起こるとも考えられる。(過去ログでは、ダウンレギュレーションの理論はトレドミンなどの出現により、崩れているのではないか?と言う記載をしている)
だからこそ、いざとなった時、超人的な力が出るのである。
再取り込みを阻害している状態が続いていれば、非常事態になったとしても、伝達物質のギャップも大きくない上に、脳内へのインパクトもたいして大きくはないであろう。だから、差し迫った状況でもエンジンがかからない。これはある意味、レセプターの過敏性が解消しているとも言える。
このエントリはブプロピオンやアモキサンなどの抗うつ剤が、病状を悪化させると言うものではない。その逆である。
慢性的に動けず、非常事態でやっと動ける程度では話にならない。
それでは学業や仕事が続かないから。火事のときに真っ先に逃げられるだけである。(ここがアパシーと亜昏迷の相違)
馬鹿力は出なくなっても、まだ平均的に活動的な方が社会に入っていけるだけ、はるかに治療的である。常に社会に接している方が、良い方向に歯車は廻るものだ。
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いざと言うときに力が出ない(10)
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