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楽器演奏とエビリファイ

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過去ログに「楽器演奏とリスパダール」という2つの一連の記事がある。

今回は「楽器演奏とエビリファイ」。ある日、エビリファイとリスパダールが力価的に1:1で処方された患者さんが来院してきた。なぜこのような処方になるのかは、いくつか考え方がある。

元々、統合失調症圏では、幻覚妄想、特に幻聴への効果はリスパダールの方がエビリファイより上回る。従って、エビリファイで治療を進めていたが、最高量使ってもなお幻聴が遮断できなかったため、リスパダールを併用されたという考え方が1つ。

これは良くある話だと思う。なぜリスパダール単剤になっていないかというと、リスパダール単剤でも満足できる結果にならなかった(つまり完全には幻聴が止まらない)のかもしれない。

また、エビリファイを併用することで何らかのメリットがあったため、併用の手法をとったのかもしれない。従って、どちらの薬も最高量とかではなく、中途半端な用量であった。

他の考え方として、リスパダールで始めたが、あまりによどんだ印象になったため、少し溌剌さを出すためにエビリファイを併用したことも考えられる。エビリファイは賦活するからである。また、細かいことを言えば、リスパダールから引き起こされる高プロラクチン血症による無月経を緩和するためにエビリファイを追加されることもありえる話だ。エビリファイのD2レセプターへの親和性は非常に高いため、追加処方するだけで性機能障害が改善する人たちがいる。

自分の患者さんに関してだが、もう長いこと薬剤性無月経になった話は聴いたことがない。これはリスパダールを無謀な量は使わないからである。(1㎎が最高。ただし1㎎でも無月経は生じうる)

抗精神病薬に由来する無月経に対し、パーロデルを併用する手法があるが、これはあまりにも失敗を失敗で補う方法に見えて、僕はしない。パーロデルは本来の精神症状を悪化させうるので、精神病像が複雑化するリスクがある。

もちろん、パーロデルは悪性症候群には使うことがあるが、コアな悪性症候群は近年あまり経験がない。このブログ的には、悪性症候群は必ずしも薬剤性による副作用とはみなしていない。(「悪性症候群の謎 」参照)

リスパダールにエビリファイを追加した場合、リスパダールの力価を削ぎ落とす結果になりうることも考慮したい。お互いに効果の邪魔をする。個人的に、このような幻覚系の患者さんには、エビリファイ+トロペロンは選択する。トロペロンはリスパダールほどあからさまな性機能障害が生じにくいし、トロペロンのD2親和性がエビリファイでマスクされたとしても、それ以外の効果に良い点があるからである。

一般に、リスパダール1㎎はエビリファイ4㎎と等価換算されている。

最初に転院してきた青年の処方はリスパダール3㎎+エビリファイ12㎎(+アキネトン1㎎)であった。意図はなかったと思うが、まさに1:1である。この処方でも幻聴が止まっていなかったが、それ以外は比較的おちついており、B型事業所に通所もできていた。障害者向けの事業所のうちA型とB型の相違だが、最もシンプルに言えば、

A型事業所 普通の職場とあまりかわらない。
B型事業所 いくらかゆるい


A型事業所はその地域の最低賃金の時給を目安に給料が出されるようであるが、景気の良いところは昇給もあると聴いた。一方、B型事業所は、かなり時給が低いことが多い(時給は最低賃金を下回る。例えば1日500円など)

この患者さんは、一見してリスパダールを減薬し、エビリファイをメインにすれば、もう少し淀んだ印象がなくなり透明感が出てくると思ったので、減薬しながらバランスを変えていった。そのうち幻聴も消失したのである。

エビリファイ9㎎
リスパダール 1㎎
アキネトン 1㎎

幻聴は、必ずしも抗精神病薬の用量に比例して減少するわけではない。ここは臨床経験の少ない治療者が錯覚する点だと思う。治療初期に、「この患者さんは大量を使っても幻聴が止まるどころか、副作用が増えるだけ」と直感する患者さんがいる。過去ログでは、そのような人は抗精神病薬にこだわらず、気分安定化薬やαブロッカー、時に抗うつ剤の点滴で対処した方が良いケースもあると記載している。

当初の患者さんは、上の処方で1年以上安定していていた。この処方の中のリスパダールは少量でも十分に病像に影響していると見る。これは効果もそうだが、副作用も同様である。

ところが1年を超えてから幻聴が再燃したため、思い切って本人にエビリファイを24㎎まで増量し、リスパダールを中止することを提案した。このようなよくわからない処方で、幻覚妄想が止まるなら良いが、そうでないならインパクトがある処方が良い。

エビリファイ 24㎎
アキネトン 1㎎

これは漸増ではなく、一気に24㎎(OD錠)に切り替えた。この手法の方がかえって紛れが少ないからである。リスパダールもこの用量であれば、エビリファイの大増量とのセットなら一度に減薬も可能と考えた。

これで再燃した幻聴がとまったと言う。副作用も自覚、他覚的に何もみられなかった。

本人に感想を聴くと「ぼんやり感がなくなり、楽器演奏が断然スムーズになった」という。長い期間、リスパダールを服薬していたため、その感覚さえ忘れていたという話である。

エビリファイは少量から漸増した場合、アカシジアなど特に下半身に副作用が出現し、楽器演奏どころではなくなる人もいる。したがって、いかなる量から始めるかは経過や結果に影響する。

ただし、エビリファイは振戦があまり出現しないので楽器演奏には悪影響が少ないと思われる。

参考
楽器演奏とリスパダール(前半)
楽器演奏とリスパダール(後半) (この患者さんは今はリスパダール0.5㎎である。元気に働いている)
高プロラクチン血症
内因性幻聴と器質性幻聴
器質性幻聴とカタプレス
アナフラニールの点滴と器質性幻聴
器質性妄想とトピナ
セレネースを基準とする等価換算


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