リエゾンで相談を受ける高齢の統合失調症の患者さんの処方は色々なパターンがある。
一般に、真の統合失調症の患者さんであるほど抗精神病薬がフィットする確率が高く、シンプルな処方になりやすい。複雑な処方になる人は、統合失調症ではない人の方がむしろ多い。例えば疼痛性障害や境界例、あるいは難治性の双極性障害の人たちである。
外来で経過観察できるほど安定していても、高齢になると相対的に抗精神病薬が重くなる。その結果、EPSがかなり目立つ人たちがいる。
リエゾンで会う統合失調症の人は、自分の場合、精神科の入院患者さんは少なく外来で治療されている人の方が多い。従って、かなり奇妙な処方を時々診る。ある時、肺炎で入院していた高齢の女性患者さんの処方がこのようなものだった。
セレネース 0.75㎎
PZC 6㎎
ドグマチール 350㎎
アキネトン 4㎎
ルボックス 75㎎
ハルシオン 0.25㎎
エバミール 1㎎
ロヒプノール 2㎎
デパス 2㎎
これらは、半分以上はジェネリックだったが、わかりやすいように先発品に変更して記載。この処方、心療内科クリニックによるものだが、かなり妙な処方だと思う。(注:眠剤が3剤処方されているのは向精神薬の処方制限前だったため)
この女性患者さんは遅発性ジスキネジアが重く、病状が悪いにしても、もう少し処方を配慮すべきであった。この処方は何十年か漫然と続けられていたのである。
上の処方は、碌にトレーニングをしないで開業した、しかも診療経験年数だけは長い医師による典型的な処方だと思う。今の若い人が未熟なまま開業した場合、おかしな処方になるとしてもこうはならない。
なぜこのような処方が数十年単位で継続されていたかだが、この処方で外来で対処できていたことと、外来だけで変更するにはかなりリスクがあるからだと思う。安全策を取り続けた結果がこれである。
この人は総合病院に入院した期間は1か月ほどだったため、薬の調整は自分の病院の外来で続けることにした。
この人は幻聴が断続的にあり、また表情もひと目、統合失調症とわかるような患者さんで、抗精神病薬を中止するのはあまりにも危険である。従って、普通にやる限り完全にジスキネジアを消失させることはかなり難しい。それでも、今よりは軽くはなりそうである。
数か月して、以下の処方になった。
セレネース 0.75㎎
アキネトン 1㎎
ユベラN 200㎎
リボトリール 1㎎
ロヒプノール 4㎎
ハルシオン 0.25㎎
デパス 1㎎
この人は高齢者とは言ってもロヒプノールは4㎎処方できる年齢だった。このようにジスキネジアがかなり出ている患者さんで、抗精神病薬を限界まで減量するのであれば、ベンゾジアゼピンは重く出さなければならない。(この人は普通に歩行できる)。
カタトニアにはベンゾジアゼピンが非常に有効なことも重要だと思う。
このような処方になり、次第にジスキネジアが軽くなり、自然な笑顔が見られるようになった。家族によると、日常生活も以前より断然よいらしい。
セレネースを残しているのは、この人は重い糖尿病があり非定型抗精神病薬の制限があったことがある。
セレネースからジプレキサ、セロクエル以外の非定型抗精神病薬に切り替えるとしたら、これと言って安全なものなどないと判断し、無難にこれまで使われていたセレネースを選択している。
普通、このような人は、セレネース075㎎でも使っているかどうかで大違いである。
外来で調整したためこのような変更になったが、たぶん入院で変更したとしてもセレネースを選択していたと思う。
(以下の記事を参照)
長期の抗精神病薬投与による嚥下障害について
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リエゾンで紹介される高齢の統合失調症の患者さん
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