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ジプレキサの3.75㎎と5㎎

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統合失調症の人へのジプレキサは、単剤処方でまとまることが多い。これ以外の精神病薬の併用は必要がないことがほとんどである。

発病ないし再燃当時、一時10~20㎎まで増量する場面があったとしてもその後、減量して5㎎ほどで継続治療できる人が多いが、5㎎で長期間、良い人は更に3.75㎎まで減薬できる人もいる。

なぜ3.75㎎という中途半端な用量が出てくるかだが、2.5㎎錠の1錠半が3.75㎎になるからである。この3.75㎎を選択する場合、ザイディス錠ではなく普通の錠剤を処方する。

ジプレキサの用量を決めるパラメータとして、統合失調症の発病からの期間、無服薬時の悪化の規模、荒廃の程度が挙げられる。もちろん、その人の忍容性も考慮される。

時に、「この人は10㎎以下に減薬することはどう見てもリスクが大きい」と思うこともある。その際は10㎎程度を継続する。この10㎎と言うのは感覚的なものだが、長く経過観察している人ではほとんど間違わない。根拠は希薄かもしれないが正しいことが多いのである。

ジプレキサ10㎎は経験からもたらされた用量ではあるが、その人のこれまでの再発の経緯や、現在いかなる環境で生活しているかも関係している。そのようなことから、適切な言葉を選ぶとしたら「10㎎に収束する」といった感じである。

今回は「3.75㎎と5㎎の差は意外に大きい」という意味のタイトルである。特に発病からの治療期間が長いケースでは、3.75㎎でコントロールできていたとしても、日常生活をよく観察していると、いくらか綻びが散見されることがある。

外来で短い時間診察しただけだと、3.75㎎がその人にとって不足しているのが全く分からないこともある。これはジプレキサと言う薬が表情など、陽性症状ではない精神症状を非常に改善することと無関係ではない。

デイケアでのちょっとした場面とか、訪問看護での自宅での様子などの看護者や精神保健福祉士などの報告などから、3.75㎎は十分な用量ではないことがわかる。

あるいは、3.75㎎でほぼ落ち着いていた入院患者が、内科あるいは外科治療のために、総合病院の精神科へ転院した際に、劇的に悪化することで維持療法として不十分だったことがわかる。

それまで長く3.75㎎の用量で軽快していた人では、著しく悪化した際、かつては服薬できていた20㎎の用量が重すぎて服薬できないことがある。

これなどを見ると、精神科の薬物療法はやはり相対的な部分が大きいと感じる。

3.75㎎では効果が不足する場合、いったん10㎎まで増量しその後5㎎まで減薬する人と、単純に5㎎まで増量することでなだらかに回復する人がいるが、病状悪化の規模によりどのようにスケジュールするかを決めている。

過去ログに、措置鑑定の際に「まさかこんなところで会うとは思わなかったよ」という記事がある。(参考>薬の残量を基準に来院する人たち

この人は措置鑑定後、措置入院で他病院に入院しジプレキサ20㎎で転院してきた。彼はジプレキサが合うのは最初からわかっていたため、怠薬での悪化ではあるし、ジプレキサで治療を行うのは自然だと思う。

その後、3.75㎎まで減薬できた。ところが、外科手術の際に環境変化で著しく悪化し、手術を終え再入院してきたとき、その表情の悪化ぶりや病棟内の行動のまとまらなさに驚いた。

また、不思議なことに、彼はもはやジプレキサ20㎎は服薬できなかったのである。仕方なく、ジプレキサを10㎎までに留め、何らかの薬を追加する方針で行くことにした。

一般的には、このような悪化時に、ジプレキサ10㎎抗精神病薬ではない薬を補助的に追加するとしたら、

デパケンR(特にシロップ)
ミノマイシン
ステロイド


くらいが良さそうに見える。抑肝散は消極的すぎる。上の3剤の問題点は皆、何らかの欠点があることだと思う。ミノマイシンは以前、まったく無効なことがわかっていたのですぐに除外した。

この人は肥満はしていないが、かといって痩せ形ではなく、ジプレキサでは更に肥満しないだけである。しかし、デパケンR+ジプレキサとか、ステロイド+ジプレキサは、肥満に関して、あるいは糖尿病の発症に関して危険すぎる。(もちろん後者がより危険)。

もともと、ジプレキサ10㎎という用量はこの人にとって十分なものなので、今は悪いにしても時間が経てば次第に改善するような気配があった。

時間が経てばというが、半年かかるなら色々な意味でよろしくない。しかし、1か月くらいで良くなるのであれば、前回の措置入院の際の悪化の規模に比べれば、ずっと軽いものだし、問題にならないと思った。

そのような感覚もあり、平凡にネオラミンスリーBのみ数日間、点滴して様子をみた。ネオラミンスリーBは疼痛にも治療的で、静注や点滴だと少し眠くなる。鎮静的に作用するので、今の病態なら悪くないと思った。またこのようなケースでは、単に点滴をするだけでも治療的である。

彼は悪化した時期、いつもナースルーム近辺、3メートル以内をウロウロしていた。(病状の悪い人はナースルーム近辺にいることが多い)。

しかし、次第にナースルームに近付かなくなり、自分の部屋で過ごすことが多くなった。

結局、ジプレキサ10㎎で十分だった。1か月も経たず、自然な表情に戻り軽快したのである。

彼は最終的にジプレキサ5㎎で十分だと思う。ここが難しいのだが、3.75㎎と5㎎はストレス時の脆弱性はあまり変わらないのかもしれない。しかし前回のこともあるので、5㎎で維持するのが妥当だと思う。

穏やかな環境下、不必要な高用量で維持するのは長期的には良くない。その理由は、悪化時の対処の選択肢が狭まるからである。また次第に本人が高齢になるのも考慮すると、そのような判断に落ち着きやすい。

参考
カタトニアの話(総論的なもの)
短期決戦に構える


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