生活保護の人は贅沢品とみなされるものを購入することは許可されていないが、贅沢品のラインは常に変わり続けている。
1990年のイタリアワールドカップはNHKの衛星放送で全試合ライブ放映されたが、衛星放送は特別なアンテナが必要で、さほど普及していなかったこともあり、どこの家庭でも観られるわけではなかった。
当時、外来診察中、生活保護の患者さんと話していたところ、まったく同じ試合を観ていたことが判明。この患者さんは、衛星放送のアンテナをもっているんだと思った。当時、衛星放送を観ることは贅沢なことだったが、既にその設備を持っている人は、その視聴料を支払うくらいは大目に見られたのであろう。
1990年頃はまだバブルの時代であり、自宅を売れば5000万円になろうかという人にも、生活保護が支給されていたりした。
精神疾患のために、仕事ができず生活費も医療費も支払えない状況だと、とりあえず何とかしてやらないと医療も受けられないため、高額な自宅があっても生活保護が支給されることを知った。おそらく大豪邸は急には売れないからだと思った。
その数年前の研修医時代、オーベンは精神疾患の場合、回復して同じように仕事ができるようになるかどうかが大きく関係すると話していた。たとえば、農家の場合、農地を売ってしまっては、仕事に復帰することができない。したがって、それを売れとまでは言われないのである。
しかし、例えば統合失調症のために荒廃が進み、全く農業ができない状況になると、農地も売れるものなら売らなければならない。
ある時、ある生活保護の入院患者さんが悪名高い新興宗教に寄付をしていることを知った。
さて、生活保護を支給されている人は、悪名高い宗教団体に寄付をしても良いのでしょうか?
この答えだが、寄付しても良いらしいのである。常識的な額であれば、本人の信仰心で倹約して寄付することは福祉は文句が言えないらしい。また悪名高いとは、一般の大抵の人がそう見なしているだけで、宗教団体として認可されているものは、福祉からそのような評価はできないのだろうと思った。
元々、支給されるお金は私たちの税金から支払われていることもあり、今一つ納得できない裁定ではあった。その理由は、そのようなお金がその宗教団体を太らせ、回りまわって社会で悪用されるかもしれないからである。
日本は都会と田舎では必要な生活費もかなり異なり、地方により生活保護支給額は異なる。また許される家賃の上限も異なっている。
ところが、犬やネコを飼っている場合、生活保護を受けるようになったからと言って、おいそれと引っ越せない。
今はずっと以前より、アパートやマンションで犬猫を飼えるところが増えている。分譲マンションは特にそれが言える。その理由は犬猫を飼える仕様でないと、売りにくいことがあるらしい。
賃貸では犬猫が飼えるマンションは、ベランダに動物の洗い場があるなど仕様を変更しており、その分、少し高額なことが多い。
したがって犬猫を飼っている人は生活保護を受給する際、今住んでいるアパートなどが家賃の上限を超えている場合、引っ越しを通告されることが多い。しかし、このようなアパートが簡単には家賃の範囲内で見つからないのである。
このような際に、その家賃の上限を超える差額を特別に自分が支払うと言えば、引っ越ししなくても良いという話である。(その差額の大きさにもよると思うが)
上の新興宗教への寄付が許されるなら、これが許可されないとしたら、筋が通らないと思う。
しかし、このような細かいことが市町村の福祉のケースワーカに周知されておらず、無理に引っ越しさせたりするため、悪い結果になることがある。
例えば、ある女性患者さんは、1日に数時間アルバイトができていた。しかし、引っ越しを通告されたため、アルバイトができなくなったのである。これは彼女がそのショップでしか仕事ができないこともあるが、住環境が激変し、ストレスフルになったため精神症状が悪化したこともある。(精神科業界では、「引っ越しうつ病」というワードもある)
たった1か月2000円の差額のために、無理に引っ越しさせ、症状まで悪化させてアルバイトもできなくなった結果、以前より遥かに大きな金額を支給しなくてはならなくなった。(それまでアルバイトの収入があるため、2~3万円しか支給していなかったのに。ただし医療費は別)
何が言いたいかというと、あまりにもお役所仕事で、近視眼的な対処しかしないから、かえって税金を失ってしまうことを言っている。
(おわり)
この記事は「障害年金、精神障害者保健福祉手帳」のテーマとしました。
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生活保護のルールが柔軟性を欠き、また周知されていない話
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