ずいぶん昔、総合病院で働いていた当時、その精神科外来の1日平均来院人数は88名、1日平均新患人数が4名だった。しかし、これには院内のリエゾン患者は含めていないので、もう少し多かったのではないかと思う。
赴任した当時、自分が最も若手で上の先生と言っても同門の2年くらい先輩で、年齢も経験年数もあまり変わらなかった。何らかの質問をして、まともな答えが返ってくる確率が低かったのである。また部長ですら40歳くらいだった。
僕は当時、部長(ボス)が何らかの精神科雑誌なり書籍を読んでいるのを見たことがなかった。したがって、聴けることは処遇に困るような患者やその家族の対応の仕方くらいだったが、それでもこの世界では貴重な経験だったと思う。
さて、現在、心療内科あるいは精神科の外来のみのクリニックは急な新患を受けていないところもずっと増えている。これはいくつか理由があり、診療報酬の診察時間5分以上制限のため、既に受け持ち患者数が飽和状態に達していること、新患を診ることの診療報酬上のメリットが薄れていること、新患を診ることの潜在的リスク増加も関係している。
限られた時間で診る際、できれば手がかからず、ストレスのかからない患者ばかりの方が良いからである。
かつて上に挙げた総合病院を辞め出身大学の県に戻る時期に、たまたまアルバイト先のドクターがメンタルクリニックを開業された。その先生は技量などはよくわからなかったが、非常に患者受けする対応が良いドクターだったため、自分の持ち患者のかなりの数をそのドクターに紹介した。
総合病院の精神科に受診する理由の1つに、人に説明する際に話しやすい点が挙げられる。つまり、スティグマが関係している。当時はクリニックはやっていけるかどうかも怪しいもので、まして開業してまもない頃は開店休業状態になることが容易に予想された。
その理由は、その開業した先生のクリニックは、あまりにもそれまで勤めていた病院に近すぎて、しかも遠慮もあったのか、全くその病院の患者は持っていかなかったからである。したがって、最初は自分の紹介した患者は待ち時間も少なく、
すぐできます!
の状況なのも紹介しやすい理由の1つだった。総合病院の精神科外来は待ち時間が長すぎた。
当時の総合病院は外来患者数も新患数も多すぎて、全員が過労死しかねない状況にあり、少しでも受け持ち外来患者数が少なくなるのが望ましい。また、自分が辞める少し前に派遣された女医さんは精神科の初期トレーニングが少なすぎて、危なくて見ていられない状況だったこともあった。そのようなことから、クリニックへの紹介についてボスに相談したところ、快諾されたのである。
また、自分は新患を多く診すぎていた結果、持ち外来患者数も入院患者数も多すぎる状況だった。さらに自分の交代で来る新しいドクターが卒後まだ1年半ということを聴き、ぞっとしたのを覚えている。
それなら、ベテランに任せた方がずっと良い。
後年、その紹介先のドクターに会う機会があり、当時、彼が頼みもしないのに多くの患者さんを紹介されたことを感謝された。もう1つ、誰一人、処遇に困るような人はおらず、診察しやすい人たちばかりだったのも感謝されたのである。
こちらから言えば、お互いのメリットになることだったし、クリニックに通う以上、悪化すると入院が必要になるほどの患者さんは紹介しないことにしていた。したがって、診察しやすい人ばかりになるのは当たり前である。
僕の友人の話だと、何も患者さんを他病院から全く患者さんをもっていかない開業では、最初の数か月は開店休業状態で、かなり本などが読めて、長年の疲れが取れるという話である。
参考
最も辛いことは、困ったとき相談する相手がいないこと
28歳頃の話
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かつて持ち患者をクリニックに紹介した話
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