診察時に最近の様子を聴いた際に、本人がいくつか不調を訴えた後、
薬は今のままで良いです。
という人がいる。不調な状況を改善するアイデアはあるのに何もできないのである。たぶん、薬を変更されるのが怖いんだと思う。
あるとき、昔の処方のまま、著しいジスキネジアやジストニアが出ている人がいた。それでも決して薬を変えてはならないというため、そのまま処方していた。
なんだかんだ言って、外来の自傷他害のない精神科患者は患者本人の意向が優先される。(重要)。
ただし、外来患者でも家族が同伴している人は別である(家族を非常に困らせている人がいるため。この際は、患者さんの家族の意向が重要である)
ある日、リエゾンで総合病院を訪問したら、その患者さんが高熱を出し入院していた。一般に大きな身体疾患の際に、重い精神科の処方は負担になりかねないので薬を減量することは一考される。
なぜ「一考」なのかというと、身体的な悪化の際に精神症状が爆発的に悪化する人もいるからである。一般的には減らしても大丈夫なことが多い。安易に中断すると、その方が遥かに危険なことがあるので完全に中止はしないことが多い。(重いカタトニアに至ることがあるなど)
向精神薬は半減期が長いことが多く、一時的な絶飲食で2~3日中止することはほぼ大丈夫である。抗てんかん薬などで中止ができないケースは点滴や筋注などで対処する。
処方内容を減量すると言っても、それまでの精神症状や身体疾患の規模は勘案すべきで、「個々の患者さんの状況により対処する」といったところだ。
その患者さんは、偶然の身体疾患のために減量する機会ができた。その後、本人も減量しても大丈夫なことを体感したため、順調に減量が進んだのである。そうして、セレネース20㎎の人の処方が以下のようになった。
セレネース 0.75㎎
アキネトン 1㎎
ユベラN 1c
リボトリール 1㎎
ロヒプノール 4㎎
ハルシオン 0.5㎎
デパス 1㎎
この処方は、セレネースがたった0.75㎎しか入っていない。これでも0とは大違いである(有効という意味)。
それに対して眠剤が重く入っているのが特徴。これは従来あったジスキネジアやジストニアを考慮しているのと、こうすることでセレネースが極限まで減らせる(このレベルでも再発のリスクが下がる)のである。
外来の看護師さんたちによると、断然笑顔が良くなったという。またギクシャクした動きも目立たなくなっている。この年齢でも良くなり続けているのは間違いない。
注意してほしいのは、この人は一見して減薬できそうだからこそ減らしたわけで、それまでの経過で減らしようがない人もいる。今の自分の患者さんで、最もセレネースを多く飲んでいる人は12㎎である。
全ての人が減薬できるわけではない。
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薬は今のままで良いです
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