一般に、精神科医は統合失調症の人には幻聴についてあまり尋ねないほうが良いとされている。これはあくまで一般的なことで禁忌というほどではない。聴かないとサッパリわからないことがあるので、そのような質問もある程度は仕方がない。それでも、睡眠や食事がどんな風かより若干聴き辛いのは確かである。
幻聴の有無の質問自体は幻聴を否定するものでもなく、また積極的に肯定してはいないので、幻聴の存在に中立である。
また診断基準に幻覚妄想の有無の項目もあり、それを聴かなくて、どう診断するんだ?という話にもなる。(過去ログでは幻聴は統合失調症に特異的な所見とまでは言えないと記載している)。
最近は幻聴はありませんか?と聴くと、
幻聴はどんなことですかね?
と逆に質問された。この人は発病後20年は経っているし、治療期間も同じくらいあるので、たぶん数え切れないほど同じ質問をされたはずである。
その人にとって「幻聴は未分化な異常体験」なのである。だから、逆にこちらに質問するのであろう。
精神症状が脳の認知の部分でうまく噛み合っていない。だからうまく表現できない。僕が幻聴を説明すると、
言葉はよく聴こえます。
という。また続けて、
インターネットから見られていますね。
と言う。とてもインターネットをしているように思えないのにそんな風に言うのである。僕は、インターネットをしたことがあるのか聴いてみた。
インターネットは自分の家にはありません。
「なんじゃそりゃ?」の世界である。本人はどうも、未だしたこともないようなのである。インターネットは不思議な言葉で、僕は上と同じような経験が何回かある。
ある時、75歳くらいの初診のおばあちゃんが、「インターネットに監視されている」としきりに訴えるので、実際にインターネットをしたことがあるのか聴いてみると、今までしたこともなく、それどころかコンピュータの実物を見たことすらなかった。家族にインターネットをしている人ももちろんいない。
どのように、インターネットと言う言葉が脳内に入ってきたか謎である。(たぶんテレビかラジオくらい)。
元々、インターネットには輪郭がない。境界線というべきか。
患者さんから見えない隠れている部分がテレビやラジオよりずっと大きいようなのである。だから、インターネット(それ自体、言葉)は、自我障害のある人には辛い環境なのであろう。おそらく、リスキーな世界である。
参考
幻覚や妄想を否定すること
やがてネットから離れ・・
幻聴が減っているかどうかさえわからない
惑星ソラリス
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幻聴はどんなことですかね?
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