今日からある線維筋痛症の女性患者さんの治療経過をアップする予定。彼女は種々の薬を試みており、それらのエビデンスと推奨度も含め紹介したい。少しずつ解説を交えて進めるため、①から何番までいくか今のところ不明。
そのため、しばらく線維筋痛症や慢性疼痛の話ばかりになるが、向精神薬の話が中心なので、疼痛のない人にも参考になると思う。
彼女は、今から10年ほど前に不安感や、うつ状態、不眠で心療内科クリニックに初診している。
当時、全身倦怠感が酷く、精神面でも一時も落ち着けない状態だった。その後、8年ほどして精神科病院に転医しリフレックスを主体に治療されている。転院時の処方。
リフレックス 45mg
ソラナックス 2.4mg
ワイパックス 3mg
コントミン 50mg
ロヒプノール 2mg
ベンザリン 10mg
ロラメット 2mg
ユーロジン 4mg
レンドルミン 0.5mg
他、下剤。
抗不安薬、眠剤が相当に多いがこれでも全然眠れないという。不眠時にはコントミンを50mg屯用で服薬するように言われていた。
とにかく、不安感や不眠が酷く、リウマチによる痛みもある。関節も痛いがどこと言わず痛いため、どことはいえないと言う。パニックも時々出るらしい。若い頃リストカットがあったが今はない。初診時、診察室では、きつさと疼痛のために泣き出すような状態であった。
転院時の処方は数種類のベンゾジアゼピンが入っており、それでもなお不眠が酷く、またパニックも出ているのが問題。リフレックスも最高量入っているが、うつ、疼痛、不安ともに効果的とは言いがたい。
リフレックスは漸減することにし、アンプリット、ルジオミール、エビリファイ、リボトリールを併用する。なお、リフレックスは線維筋痛症に有効な薬物で、エビデンスⅡb、推奨度B(日本でもB)と最高に近い。この人には効いていないが。
アンプリットを選んだ理由だが、トリプタノールやアナフラニールより服薬しやすい上に、パニックに有効だからである。(ただしレセプト上、適応はない)。ルジオミールは眠剤的に追加している。少量のエビリファイはうつに対して処方したと思うが意図はよく憶えていない。
リボトリールは筋緊張が亢進しているタイプの線維筋痛症に推奨されている。抗てんかん薬の中では使いやすいというのもある。なお、リボトリールはエビデンスⅣ、推奨度Cである。0.5mgから開始し、せいぜい1.5~2mgを維持量とし、大量に使わない方が良いとされている。
アンプリット 50mg
リボトリール 1mg
ルジオミール 25mg
エビリファイ 3ml
当初の処方は漸減することにする。本人に急激に中止することを禁じ、優先順位を決めて減量するように指示。外来では、可能なら毎日アナフラニール(エビデンスⅡa 推奨度B 日本でもB)の点滴に来るように指導。
アナフラニール 8mg点滴静注。
しかし、毎日は点滴に来られないと言うため、2日で中止している。やる気が起きず不眠も酷い。
3時間でも良いから眠りたいと言う。
ブロバリン、イソミタールを併用。(ベンゾジアゼピンやコントミンを増やしてもキリがないため)
ブロバリン 0.4
イソミタール0.1
その後、イソミタールを0.2gまで増量。エビリファイは1日6mlとし3mlずつ朝、夕に服薬するように指導する。
解説
元々、海外では線維筋痛症に対し、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は推奨されていない。その理由は有効性を示す証拠がないことと、転倒や骨折の増加、認知機能の低下などを来たすからである。もちろん依存性も考慮されている(推奨度D)。
しかし日本では、ベンゾジアゼピン抗不安薬はあまり抵抗なく処方されることもあり、推奨度がCと海外より1ランク高い。CとDでは大違いである。海外ではベンゾジアゼピン抗不安薬を使う代わりに不安などには抗うつ剤、不眠には、抗うつ剤、抗精神病薬や抗てんかん薬、非ベンソジアゼピン系眠剤を推奨している。
以下は線維筋痛症の不眠に対する治療薬のまとめ。
抗うつ剤
リフレックス(エビデンスⅡb、推奨度B、日本でもB)
疼痛、睡眠をともに改善する。
レスリン(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
その他、ルジオミール(エビデンスⅡa 推奨度C 日本もC)、トリプタノール(エビデンスⅠ 推奨度A 日本はB)などの抗うつ剤も不眠に対し治療的である。
なお、サインバルタ、トレドミン、パキシル、ジェイゾロフト、デプロメールも線維筋痛症に有効な抗うつ剤だが、不眠に対しては効果が乏しいか、かえって不眠になるため今回は取り上げない。
抗精神病薬
コントミン(エビデンスⅡb 推奨度B 日本はC)
睡眠、疼痛、気分に対し有効という研究あり。
レボトミン(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
疼痛は改善しないが、睡眠の質を改善する。
ジプレキサ(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
5~20mgで有意に、疼痛、活動レベル、睡眠を改善する。
セロクエル(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
疼痛は改善しない。疾患の活動性を改善。(経験的には睡眠を改善しそうに思われる)
抗てんかん薬
ガバペン(エビデンスⅡa 推奨度B 日本でもB)
1200~2400mgで有意に疼痛、生活の質を改善する。ただし単独処方できない。
リリカ(エビデンスⅠ 推奨度A 日本はB)
リリカは疼痛に対する薬物だが、海外では抗てんかん薬の適応もある。睡眠、疼痛、生活の質のいずれも改善する。
一般に慢性疼痛に対し、テグレトール、アレビアチン、トピナ、ラミクタールは有効であるか、非常に効くことがある。ここでは不眠がテーマなので割愛。
睡眠薬
眠剤は非ベンゾジアゼピンのアモバン(あるいはルネスタ)、マイスリーを推奨している。
アモバン(エビデンスⅡa 推奨度B 日本でもB)
疼痛や睡眠の質は改善しないが、日中の疲労感や覚醒回数を有意に改善したという研究がある。
マイスリー(エビデンスⅡa 推奨度B 日本でもB)
疼痛や睡眠の質を改善しないが、睡眠時間や日中の活力を改善したという研究がある。
その他
メスチノン(エビデンスⅡa 推奨度B 日本でもB)
重症筋無力症の治療薬。疼痛や生活の質を改善しないが、不安や不眠を改善したと言うアメリカの研究がある。
テルネリン(エビデンスⅣ 推奨度B 日本はC)
睡眠状態、疼痛、生活の質を改善。
エビスタ(エビデンスⅡa 推奨度B 日本でもB)
エビスタは選択的エストロゲンモジュレーターと呼ばれ、骨・脂質代謝にはアゴニストとして、子宮内膜、乳房組織にはアンタゴニストとして作用する骨粗鬆症治療薬である。閉経後の線維筋痛症の患者に限り研究が行われ、疼痛、倦怠感、睡眠障害、全般的健康評価に有効であったとされる。しかし、エビスタで深部静脈血栓症も生じており、動けない患者には注意を要する。
エビデンスレベルⅠ~Ⅴについて
ランクⅠ
Systemic review、メタ解析によるデータ。
ランクⅡa
1つ以上のランダム化試験によるデータ。
ランクⅡb
非ランダム化データによるデータ。
ランクⅢ
分析疾病学的研究によるデータ。
ランクⅣ
記述疾病学的研究によるデータ。(何例中何例が有効だったなど)
ランクⅤ
患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見。
推奨度
A 行うように強く勧められる。
B 行うように勧められる。
C 行うように勧めるだけの根拠が明確でない。
D 行わないように勧められる。
(続く)
参考
線維筋痛症のテーマ
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線維筋痛症の女性患者①
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