線維筋痛症では、微小な刺激でも激痛を感じることがあり、人によると、シャワーですら大変な痛みを感じることがある。
手首に痛みを感じたとしても、「痛みを感じる座」は脳にある。
従って、例えば手首に激痛を感じた場合、その場所から脳に至るまでの神経伝達や脳での情報の処理の障害でも異常な痛み感覚が生じるのである。
ヒトの神経系では、痛みのシグナルは脳に至るまで修飾することができる。だから激痛が生じうるほどの大怪我をしても、その瞬間ではなく、その直後の神経伝達を通じて痛みとして脳で感知される。
その伝達に関与しているものとして、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が挙げられる。
セロトニンやノルアドレナリンが知覚神経系に豊富に放出されると、疼痛は抑制ないし遮断される方向に行く。逆に枯渇している状況では、閾値以下の微小な痛み刺激でも大きな疼痛に感じられるようになる。
そのような文脈で、SSRIやSNRIのセロトニン及びノルアドレナリンの再取り込み阻害作用により疼痛が軽減ないし消失させることができるのである。
一般に、SSRIもノルアドレナリンを全く増やさないとまでは言えないが、SNRIの方がセロトニン、ノルアドレナリン双方に対し増加させる効果があるため疼痛にはより有効である。これは、実際に推奨度でも相違が示されているし、臨床経験にも一致している。
以下は主なSSRI及びSNRIのエビデンス及び推奨度を挙げている。
SSRI
パキシル
エビデンスⅡa 推奨度B (日本もB)
ジェイゾロフト
エビデンスⅡb 推奨度B (日本もB)
デプロメール(ルボックス)
エビデンスⅡb 推奨度B (日本もB)
SNRI
サインバルタ
エビデンスⅠ 推奨度A (日本はB)
トレドミン
エビデンスⅠ 推奨度A (日本はB)
エビデンスレベルⅠ~Ⅴについて
ランクⅠ
Systemic review、メタ解析によるデータ。
ランクⅡa
1つ以上のランダム化試験によるデータ。
ランクⅡb
非ランダム化データによるデータ。
ランクⅢ
分析疾病学的研究によるデータ。
ランクⅣ
記述疾病学的研究によるデータ。(何例中何例が有効だったなど)
ランクⅤ
患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見。
推奨度
A 行うように強く勧められる。
B 行うように勧められる。
C 行うように勧めるだけの根拠が明確でない。
D 行わないように勧められる。
過去ログの「ジェイゾロフト」の記事で、疼痛に対しゾロフトやECTが効いた話が紹介されている。SSRIは効いておかしくない薬だが、処方に際しその患者さんの年齢や忍容性の程度を診てから判断すべきである。
一般に抗うつ剤の抗うつ効果と疼痛への効果は独立していると言われている。また、SSRIはSNRIや3環系抗うつ剤より疼痛への効果が劣るとされている。
SSRIは3環系抗うつ剤より副作用の頻度が少ないという都市伝説にはほとんど根拠がなく、二重盲検法によると副作用の頻度には有意差はない(過去ログには副作用のタイプが異なるという記事もある)。
疼痛に抗うつ剤を試みる場合、SNRIをSSRIより優先した方が良い。その際に3環系あるいは4環系抗うつ剤やリフレックスの処方も考慮すべきである。
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線維筋痛症とSNRI及びSSRI
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