誰が言ったのかもう忘れてしまったが、ある女性患者さんが、
ちょっと無理して働いていると、次第に楽になり、脳のランナーズハイが起こる。
と言ったことがあった。ランナーズハイとは、例えばマラソンなどの長距離選手が走り続けている際に苦痛を飛び越えて、ある種のユーフォリア状態に至るといったものである。
彼女によれば、体調の悪いときに、多少無理気味でも仕事に打ち込んでいると、自分の体や気持ちの方に気が向かなくなり、「ランナーズハイ」状態になると言う。その結果、なんとか仕事はこなせると言うのである。
しかも仕事の一段落後は一気に落ち込んだりはせず、ある程度安定していると言うので、非常に面白いと思った。なぜなら、緊張が緩むと悪くなってもおかしくないから。
彼女は結局は深刻なレベルではないんだと思うが、彼女は彼女なりに考えて行動していると言える。また職場環境も、適応障害を起こす人に比べると恵まれているんだろう。
また、その仕事に自分の特性が合っていることや、仕事が基本的に好きなことも関係ありそうである。
過去ログに、「精神科における非日常」についての考察を紹介しているが、それとも少し関係ありそうである。
彼女は机に座りっぱなしの職種ではなく、あちこち飛び回るような仕事なので、自ら「非日常の状況に置く」ともいえる。
脳の機能にはまだわかっていないことが多くあり、このブログでも時々、
よくわからない理由でよくなった。
という記載をしている。これはこれで意味はあるのである。たぶん。
過去ログでは、良くなり始めると、多少ゆり戻しがあったとしても、治療した時間に比例してよくなるという記載をしている。これは薬物療法の話で出てきたが、別に薬物療法だけがそうと言うわけではない。
精神科では、悪化、改善のいずれにも慣性の法則(運動の第1法則)のようなものが働くようなのである。
余談だが、「脳のランナーズハイ」と自ら言うことが僕の患者さんっぽい。やはり患者さんは主治医に似てくるのである。
参考
精神疾患における非日常の考え方(12)
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脳のランナーズハイ
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