精神科病院、特に単科精神病院は、入院ベッド数が多い巨大病院が少数ある都道府県と、その反対に、ベッド数が少ない病院が多い都道府県がある。
ここで言うベッド数の目安は200床程度である。つまり200床に満たない病院は単科精神科病院では小さいとされている。
従って、同じような人口の県でも、病院数にはかなりばらつきがある。
巨大な病院が多いような県は、ある市に全く精神科病院がないということもあり、患者さんがいざ通うとなると、かなり遠方に行かなければならない。その不便さを補うのが、精神科ないし心療内科クリニックである。
実際、僕が生まれた市には当時、精神科病院がなく、現在でもない。それどころか精神科・心療内科クリニックすらない。それでも母親の話では、毎年、人口が増えているという。住みやすいからである。市内の人たちは精神科病院にかかるなら、市外まで行かなければならない。
精神病院の分布が歪になった理由だが、日本は先進国では精神科ベッド数が多く、ある時期から、新規の精神科病院は認可しない政策を採ったこと。
僕が精神科医になった当時、既に新規の精神科病院の建設は実質的に禁じられており、かろうじて、沖縄県だけは可能であった。沖縄県は、アメリカに長く統治されていた歴史があり、種々の特例措置があった。
新規の有床の精神科病院が建設できなくなった後、大都市部への人口集中が生じ、地方では過疎化が進み、精神科ベッド数の偏在が生じた。そして人口比にそぐわない分布になったのである。これは「一票の格差」の話に似ている。
個人的に、関東や関西の大都市部には精神科病院(ベッド数)を増やすべきであり、地方はベッド数をその地域の人口に応じ、現在より減らしても良いと思う。
あるいは、地方は精神科病院のベッドの一部を認知症などに特化させる医療政策を採った方が、現在の日本の状況に合っている。精神科病院のベッドは、今後、認知症など高齢者のために使われるべきだと思う。
地方に住む人の困る点は、いざ精神科病院にかかろうとすると、「そこしかない」ことである。
つまり選択の余地なんて全くない。もう少し大きな市でクリニックがあると、まだ選択できるが、市内に1病院しか精神科病院がないような市はクリニックも多くは建たない。
市内に精神科病院が1つしかないような場合、とても敷居が高い。その理由は、待合室で知人に会う可能性が高いからである。また、田舎では従業員数が多い精神科病院に知人が働いているということもある。地方の巨大精神科病院は、都会のように多い人口に紛れてしまうことがないのである。
その病院を避けるなら、かなり遠方の病院に通わないといけない。これは今も残る精神疾患に対するスティグマが、地方でより強い傾向があることも関係している。過去ログにもあるが、スティグマにはかなり地方差がある。
関東圏に住んでいる人はわからないと思うが、地方では車がないと生活が成り立たない。家族内に車を運転できる人が1名しかおらず、その人が精神疾患を患った場合、通院も容易ではない。
精神科だけではないと思うが、精神科病院の偏在化は地方の人にとって、かなりの不便を強いることなのである。
これは日本社会の高齢化、地方の過疎化、医療の偏在など、容易に解決できないことも深く関係している。
今回の話はもう少し続きがある。
参考
メンタルヘルス不調者の医療機関受診率
日本の精神疾患の患者数
精神科と心療内科は
5人に1人
クラーク勧告
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日本の精神科病院の分布と地域性
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