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Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
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通院しているのを誰にも知られたくない人

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今回は、昨日の「日本の精神科病院の分布と地域性」の続き。

遠方の患者さんを治療していると、急に悪化した際に対処が難しい。来院するのも容易ではないし、仕事の関係で来院できる曜日が決まっている場合、1週間くらい待たねばならないからである。

だから、これが結論だが、精神科は家に近い病院で治療をするのが望ましい。

過去ログでは、「うちの病院の患者さんは同じ地域に住む人たちが非常に多く、これが誇りでもある」と言う記載がある。

家が近い場合、うつ状態が悪化した際、毎日でも来院できるメリットは大きい。

ある時、100km以上遠方に住む患者さんが、何らかのきっかけで悪化したらしい。できれば来院してほしいが、家族によると、夜ではあるし遠すぎてとても無理だという。

その市には1軒だけ精神科病院があるので、「それくらい悪いのであれば電話してみては?」と伝えた。

夜間は、地方によって若干相違があるが、輪番制度がある。どこの病院でも電話で聞くと、輪番病院は教えてくれるし、偶然その病院であればすぐ受診できる。夜でもその地域で診て貰える病院が必ずあるのである。

しかし夜間の場合、運が悪いと、かなり遠方に行かざるを得ないこともある。それでも県外のうちの病院まで来るよりはマシである。

だいたい、精神症状の悪化といってもその内容が問題である。精神病の著しい興奮状態であれば、救急車は精神科病院に搬送してくれない。つまり救急車は利用できないのである。

まずくすると、救急隊員が大怪我をするケースもありうるし、救急車の中の医療機器を壊されることもある。救急車を壊された場合、急に使えなくなり、他の助かるはずの患者が亡くなるという事態もないとはいえない。

タクシーや介護タクシーももちろん無理である。連れて行ってくれるとすればパトカーであるが、協力してくれるかどうかは、やはりその精神症状の性質や状況による。比較的、協力してくれるのが普通である。警察なので、事件性があればなお良い。

大量服薬のために動けない、あるいは昏睡状態の場合は、搬送に問題が生じないので救急車でも大丈夫である。また、多少興奮していてもリストカットくらいであれば搬送されることの方が多い。やはり精神症状の内容や程度によるのである。

嫁さんは、その時の患者さんが近所の精神科病院に受診することについて、「それは到底無理な話」という。

僕は精神科医なので、そういうタイプの悪化なら、どのような病院に行っても対応はあまり変わらないと思った。セレネースを筋注すれば、それで収まりそうだから。だから、近所の病院を勧めたのである。(注:その患者さんは統合失調症ではない。過去ログのこのタイプの悪化)

しかし、嫁さんによると、「その田舎は極めて狭い世界なので、今後、本人の仕事の継続に支障が生じる。今後、その地域で仕事ができなくなる」というのである。彼女はその地域で働いていたことがあり、色々話を聞くと、全くその通りである。

このように、精神科では単に良い悪いだけではなく、受診そのものに障壁のようなものも存在している。特に地方ではそういう面が大きいのである。

普通、「そこしかない病院」はその地域の人は誰でも知っている。また、1つしかないだけに、長年の「スティグマの蓄積」のようなものも存在する。

僕は精神科医なので、その病院はかつては悪い噂や伝説もあったかもしれないが、今はそのようなものなくなっていると思う。実は、それくらい時代が変化しているのである。

時代は既にスティグマにそぐわない状況になっているのだが、たぶんスティグマとはそういうものなのであろう。


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