ある時、患者さんから面白い質問を受けた。それは、
自分はマイスリーの5mgを貰っているが、友人はハルシオンの0.125mgを貰って飲んでいる。自分の薬は量が多すぎませんか?
というもの。
過去ログに記載しているが、このタイプのベンゾジアゼピン系睡眠薬は、力価が高いほど、少ない量の剤型になっており、ハルシオンはたった0.125mgで結構な催眠効果をもたらすので強いということになる。
この2剤にはそれ以上に、かなりの相違がある。例えば、ハルシオンは古典的ベンゾジアゼピン系眠剤で、半減期が非常に短いタイプである。
一般にベンゾジアゼピンは、GABA-A受容体複合体のω受容体に作用し、GABAの作用を増強することを通じて、様々な薬理作用を及ぼすが、ハルシオンはω1、ω2の選択性がないが、マイスリーは前者ω1の選択性が高い睡眠薬である。
また、厳密にはマイスリーはベンゾジアゼピン骨格を持たないため、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬にカテゴリーされているが、ベンゾジアゼピン受容体作動薬であることもあり、この記事の最初の部分では、便宜的に「このタイプのこのタイプのベンゾジアゼピン系眠剤」と一括している。
ω1に選択性がある睡眠薬は、鎮静作用、抗けいれん作用、健忘作用を持つが、抗不安作用、筋弛緩作用などを持たないとされている。
今、国内で発売されているω1に選択性がある睡眠薬は、マイスリー、アモバン、ルネスタである。これら3つの睡眠薬は、古典的ベンゾジアゼピン睡眠薬に比べ、深い睡眠(徐波睡眠)を増加させるメリットを持つ。
このようなことから、認知症などの高齢者の不眠には、筋弛緩作用が少ないマイスリー、アモバン、ルネスタのいずれかを用いたほうが転倒のリスクが下がる。また、全く機序が異なるロゼレムや抑肝散も推奨される。
しかし、パニック障害や不安障害などの若い人では、これらより、従来型のベンゾジアゼピンの抗不安作用を持つ睡眠薬のほうが、日中の不安が少なくなるというメリットがある。
なお余談だが、一般の薬局で買えるドリエルは、抗ヒスタミン剤なので、基本的に風邪薬や古いタイプのアレルギーの薬を飲んで眠くなるのと同じである。(ドリエル1錠中、塩酸ジフェンヒドラミン25mg)
ドリエルは簡単に耐性がつくため、すぐにあまり効かない感じになる。それでもトラベルミンで眠くてたまらないような人は最初は劇的に効くであろう。
科学的には、不眠でドリエルを飲むくらいなら、ベンゾジアゼピンの方が遥かにマシと考えるのが自然である。
なお、病院に行かない不眠患者は、日本では寝酒に頼る人が多いと言われる。
アルコールは寝つきのみ改善するが、それ以外が好ましくない。中途覚醒を改善しないし早朝覚醒も生じる。また耐性と依存性があるため、次第に量が増える傾向がある。その結果、肝障害を生じるので、良いことがあまりない。
その日の診察は、「マイスリーの5mgは量が多すぎると言うのは、医学的にはあまり意味がない」という話から、ドリエル、アルコールの話になったのであった。
参考
けいれんを抑える薬、そうでない薬
アモバン、マイスリーと不眠症
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ハルシオンとマイスリー
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