A Rush and a Push and the Land is Ours .ザ・スミスの4枚目のスタジオアルバム「ストレンジウェイズ、ヒア・ウイ・カム」の最初の曲。ストレンジウェイズとは、マンチェスターに実在したビクトリア王朝時代から続いている刑務所の名前から取られている。このスミス最後のアルバムには、死に関する楽曲がなんと5曲もある。A Rush and a Push and the Land is Oursでは、1年前に首を吊って死んだ「悩めるジョーの亡霊」と言う主人公が出てくる。(視聴だけにして下さい)
「マーガレット・サッチャーとモリッシー 」の記事に、モリッシーの、
僕はまだ自殺衝動と深い絶望に苦しめられている。
という発言を紹介している。彼の希死念慮についてはインタビューで実によく出てくる。例えば、「自殺を考えたことはありますか?」と言う質問に対し、
183回くらいね。ある点を越えると、もう自分の両親とか、後に残す人とかのことは考えなくなる。その段階を越えると、あと考えるのは自分のことだけだ。
と答えている。また、過去ログに「子供の頃から希死念慮が続いている人 」という記事があるが、モリッシーのコメントにも、
自殺が魅力的で興味深いものだって最初に気付いたのは8歳の時だった。
というものもある。また、これについて、
子供の頃は全く目がまわるほど幸せだった。お金はなかったけど、素朴に楽しい時間もあったし・・だけど、十代、僕がどんなに絶望していたか、とても言葉では言い表せない。
と言うコメントもある。これに似たような話は今の時代の患者さんからも聴くことができる(モリッシーは1959年生まれ)。
The Smiths - Girlfriend In A Coma . これも、「ストレンジウェイズ、ヒア・ウイ・カム」から。Comaとはあのコーマである。昏睡状態の少女に面会に行く複雑な気持ちを、ある意味どぎついユーモアで表現している。内容に似合わず、非常に明るい曲である。
また、貴方は陰気な人間だと思いますか?という質問に対し、
うん、実際そうだと思うよ。そう思われるような態度が・・いや、必ずしもそういうわけじゃないんだけど、インタビューを読んだ人は、ディッケンズの救養施設から出てきたような人間だと思うかもしれないけどね。
僕は幸せじゃない。違うよ。人間生活のほとんどあらゆる面に全くうんざりしているよ。僕につけられたラベルがみんな・・陰気だとか退屈だとか・・そんなラベルから何とか逃げようと逆らってたんだけど、ひょっとしたらすごく正確なんじゃないかって気もしてきた。
僕はたいてい酷いうつ病だと分類される。会ったこともない相手からね。だけど、僕でも明るい見方くらいできる。滅多にしないってだけさ。
僕は自分をあざ笑うことができる。僕が自分を飾っていると思っている人にとっても、そういう態度は罪深いらしい。だけど、自分を笑い飛ばさずにはいられなかったんだ。十代の自分の社会状況を笑い飛ばすことができなかったなら、今頃、首吊ってるよ。
また、モリッシーが精神科病院ないしクリニックを受診した時の話も出てくる。その際の、精神科医の様子のコメントが面白い。
1度か2度、精神科にかかったことがある。ずっと座って、落書きしているだけだったよ。
このような精神科医をバカにしたようなコメントはモリッシーには数多い。確かに、当時、彼に有用な薬や他の治療法などほとんどなかったこともある。
モリッシーが全く服薬していなかったわけではなく、ヴァリウムを服用していた時期がある。これは、日本のセルシンと同じ薬で、アメリカや英国ではValiumという商品名で販売されている。
「ヴァリウム(睡眠薬)がお好きだとか?」というインタビュアーの質問に対し(←この質問はかなり嫌味と言うか皮肉)
ヴァリウム?
昔はね。混乱した15歳のガキの頃・・
ところで、なぜこの4枚目のアルバムに「ストレンジウェイズ、ヒア・ウイ・カム」と言う奇妙なタイトルを付けたか聴いたインタビュアーがいる。モリッシーの説明は、
なぜって今の物事の進み方ではね。1年たったら刑務所にいたってことになっても驚かないよ。実際、両手を空に挙げて、「今度はなんだ!」って叫んでるよ。何か特定の犯罪を考えているわけじゃないけど、今時、犯罪者になるなんてたやすいもんで、遠くを見る必要なんてない。
A Rush & A Push & The Land Is Ours (Live) .過去ログにもアップしている2004年の彼の誕生日(5月22日)にマンチェスターで行われたライブから。原曲がアレンジされているが、極めて出来が良い楽曲になっている。
今日の記事の一連のモリッシーの発言には、重要な精神所見が示されている。それは、
ある点を越えると、もう自分の両親とか、後に残す人とかのことは考えなくなる。
であろう。
これは自閉症スペクトラムと「心の理論」について、重大な事実が示されていると言わざるを得ない。
それは、日常臨床でよく感じることであるが、少なくとも思春期~成人で苦しんでいる自閉症スペクトラムの人たちは、ほとんど全てが、ほぼ「心の理論」はクリアしているのである。(だいたい達成できていないなら、人ではなく動物になってしまう)
ただし、ここが重要だが、その達成のあり方は健康な人のそれと同じではない。
その不十分さ、あるいは未熟さが、おそらく、社会生活で種々の問題や混乱を引き起こす要因の1つになっているのである。
参考
Barbarism Begins At Home(The Smiths)
Still Ill (The Smiths)
↧
希死念慮とモリッシー
↧