入院治療の場合、普通、入院しなくてはならない理由がある。それは100%、精神症状とはいえないが、大抵のケースは精神症状の悪化である。
精神所見には、抑えなければならないものと、むしろ賦活しなくてはならないものがあるが、入院初期の場合、まずは抑えねばならない病態であることが多い。
例えば、幻聴が激しい人は、他の症状(例えば不活発さなど)は放っておいて、まずは幻聴の消失を主眼に置いて治療を始める。
つまり、まずは抑えないといけない。
まさか、統合失調症の診断で幻聴が激しい人に、まず賦活しやすい薬から始める医師はほとんどいないと思う。過去ログでは、悪い状態が長期間続くことが予後を悪化させると記載している、
近年の非定型抗精神病薬には、鎮静と賦活の双方の効果を持つものがあるが、これらの薬物のどちらの効果がより発現するかは、用量がポイントになる。
例えば、エビリファイのように賦活の要素が強い抗精神病薬でも上限近くの用量で始めると、鎮静効果がまず発現することが多い。躁うつ病に対し、24mg程度からエビリファイを処方するように推奨されているのはこのような理由である。
つまり、統合失調症で幻覚が活発で激しい興奮がある人にエビリファイから始めるなら、少量から始めるのは失敗する率が非常に高いのである。唯一、最初から大量処方するのであれば、エビリファイの選択肢はあると言える。
用量を誤るとうまくいくものも失敗する結果になる。エビリファイのアカシジア様の所見は、むしろ大量に処方することで軽減される傾向がある。
大量に使うと鎮静作用が強く出る傾向はジプレキサにもある。また、ジプレキサの筋注製剤なども同じ理屈である。
しかし、最初から大量に処方されることに抵抗がある人もきっといると思う。
古典的抗精神病薬では、比較的低用量でも鎮静効果が得られる薬物がある。例えばセレネース液などである。
非定型抗精神病薬か旧来の抗精神病薬どちらを選ぶかだが、発病初期であれば、それだけで予後が大きく変わるほどの相違はないと思う。過去ログでは激しい病態では、いかなる重い抗精神病薬でも体が受け止めると記載している。
初期の鎮静が終わると、患者さんは芯が抜けたようになり放心したように見えることがあるが、これも100%薬のせいとはいえない。疾患の経過はそのような流れになっていることが多いからである。普通、ずっと続いていた幻覚が消失すると大幅にテンションが下がるものだ。
鎮静的な古典的抗精神病薬で治療し典型的経過を辿った際には、より賦活的な薬物に切り替えていた。例えば、クロフェクトン、クレミン、pzc、メレリル、プロピタンなどである。(メレリルは発売中止)
一方、非定型精神病薬の大量で鎮静した場合、その薬を減量することが即ち、賦活させることになる。エビリファイやジプレキサは用量により、効果の性質がかなり大きいからである。
つまり人にもよるが、非定型抗精神病薬で治療した場合、最初から最後まで1つの抗精神病薬で治療できるメリットはある。
エビリファイにしろジプレキサにしろ大量で鎮静とは言え、人を選ぶので、全ての人がこの2つでうまくいくわけではない。エビリファイもジプレキサも大量で鎮静しようとしたとしても、合わない人は様子が変なのでわかることが多い。過去ログでもその判断の情景が伝わるような記載がいくつか出てくる。
エビリファイの大量で対処できる人は多いわけではないが、少なくともエビリファイから始められる人は後で時間差をもって出現する面倒な副作用が稀なので推奨できる。ジストニアや水中毒などでも、可能ならエビリファイが推奨されているほどである。
古典的抗精神病薬は、あまり効いてもいないのに長期戦になるのは避けたい。あらゆる戦いは、長期戦は状況を悪化させるからである。
もちろん、非定型抗精神病薬だから長期戦も許されるわけではないが、薬物治療のトータルの時間(つまり暴露時間)の考慮は長期的には重要と考えている。
それは、長期的予後に関係が深いからである。
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まずは抑えてから賦活する
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