過去ログでは、クリニックから患者さんが転院、入院した後、元のクリニックに帰ろうとしないため、困るという記事がある。
入院のため精神科病院に転院し退院後にクリニックに戻らなくなると、医師にもよるが、嫌がる人もいる。総患者数が減るからである。そのようなことが続くと、次第にうちには紹介せず、必ず紹介元に戻す大学病院や国公立病院に紹介するようになる。
これは患者さんを奪う印象をもたれかねないため、今後のことを考えると由々しき事態である。そのクリニックを悪く言っているように思われかねず、心証も悪い。そのようなことがないのは、このブログを通して読めば明らかであろう。基本的に、退院後も元の医師に戻ることを前提に治療しているので、そのような病院間の関係を悪くすることはしない。
このような時代が長く続いたため、うちの病院の転院患者は、クリニックからは極めて少なかった。その理由は、誰も紹介しないから。たまに処遇困難の患者が紹介されるだけである。
戻らない理由の1つに、クリニックよりうちの病院の方が、待ち時間が短いこともある。うちの病院で、自分が担当する外来患者さんでさえ、1時間待ったら奇跡である。その日は非常に運が悪かったと言える。
そのため、大抵の患者さんが待つことに慣れていない。たまに40分以上待たせたりすると、「今日はとても待たされた」などと不平を言う人がいるが、そのような人は、大学病院や心療内科クリニックに転院したら、ショック死するであろう。
なぜ早く順番が来るかと言うと、スピード診察に徹しているから。
大学病院時代、オーベンや他の先輩医師から、5分以内で診察できるようにトレーニングを受けた。ダラダラと時間をかけるのは下手なんだそうだ。
5分と言うのは、「いつも5分くらいで診察を終えよ」と言う意味ではない。これは時間がない時があるので、「5分以内で方針が決められるように診察せよ」という意味である。
これは簡単に書いているが、実は難しい。今でも操作して短時間で診察するのは苦手である。
過去ログに、クリニックを代診した際に異常に時間がかかるため、他の患者を待たせていることに非常にストレスを感じた話が出てくる。つまり下手なのである。思うように、自在にはできない。
うちの患者さんは、受付を済ませトイレに行っている時に呼ばれることが良くある。外来患者さんを呼んだ際に、外来にいない時はトイレに入っていることがほとんどである。つまり、タイミングが良いと、そのくらいしか待たないこともしばしばである。
最近、自分の外来患者数は外来レセプト数を見る限り限界に達しているが、今でも予約なしで新患を受け付けている。病院によれば、院長は新患を診ないところもあると聴いた。
輪番で受診した患者さんが話していたが、初診で病院に行っても、その日には診てくれないことも多いらしい。病状が悪いから行くのに、「また後日」というのは困ると言う話だった。
膨大な数になった弊害もある。それは長期処方である。今はおそらくだが、2週間処方より、4週間処方の方が遥かに多いのではないかと思う。しかし、1週間ごとに再診する人もいることはいる。
4週間ごとに来ても、診察はあっという間に終わるのである。しかし不思議にそのことで不平は出ない。外来で長く待たせると不平が出るが。
つまり、自分と患者さんはそういう関係なんだと思う。
過去ログで、患者さんが自分に依存するのは負担を感じると書いたことがある。
4週間処方なんてまだいい。中には3ヶ月処方とか6ヶ月処方すらある。過去ログの「再診すればするほど良くなる」といった内容の記事が泣ける。
3ヶ月処方になるためには、眠剤が入らず、抗不安薬もないケースでないと難しい。例えば、このような処方。
リボトリール 0.5mg
ジェイゾロフト 12.5mg
この処方では、抗不安薬代わりがリボトリールだが、実は疼痛のために使っている。この処方はリボトリールが3ヶ月処方までしかできないため、これが律則段階になっている。
パキシル、ジェイゾロフトなどのSSRIはルール上、際限なく数年分でも処方できそうであるが、実際には保存の期限(つまり賞味期限)があるので、際限なくはできない。また、もし1年分でも処方した場合、万一、その患者さんが全て服用したような際、死亡しなかったとしても問題になるであろう。自然とある程度の限度が生じている。
数年前から、眠剤は特別なものを除けば1ヶ月処方可能となった。実は、クリニックを開いている友人によると、この2週間制限がなくなったことが収益に影響しているという。1ヶ月処方を希望する人が多いからである。
つまり、このようなことを見てもいかに薬が儲からないかわかる。ましてクリニックだと、ほとんどが院外処方である。長期処方が可能になることは通院回数が減ることを意味し、その結果、医師が受け取れる技術料が減少するのである。
1ヶ月処方の人は、28日か30日分処方するが、いずれにするかは患者さんに決めてもらう。4週間処方の人は概ね安定しており、仕事の関係で1ヶ月に1度しか受診できない人も結構いる。一方、仕事もしており、他県に住んでいるのに2週間ごとに来る人もいるのでさまざまである。
2ヶ月以上の長期間処方になる人は、
1、病院までの距離があまりにも遠いため、おいそれと再診できない。
2、ほぼ寛解状態にあり、病院に薬を取りに来るだけといった感じの人(リボトリール0.5mgだけとか、ジェイゾロフト25mgだけ処方している人など)
3、認知症の老人で、施設に入所している人(処方はメマリー5mgだけなど)。車椅子使用なので、連れてくるのが大変らしい。
なお、長期間処方は、医療費が高くなりようがないため、病院にとっては経営的に好ましくないが、このような人が仮に2週間ごとに再診しても話すことなどほとんどないのも事実である。これは、国の医療費削減にも沿っている。
最近、このような長期間処方の人がそうではない人に比べ、改善率が悪いかどうかを注意してみていたら、ほとんど関係ないことが判明した。つまり、ある程度の水準で改善していれば、その後は良くなる人は放っておいてもどんどん良くなるのである。
ある3ヶ月ごとに再診している異常感覚・疼痛系の患者さんは、最初こそ、2週間~1ヶ月ごとに再診していたが、家まで100km以上あるので、その後3ヶ月処方になった。1年後くらいから、症状が急に減少し始め(それまでも良くなってはいたが)、今は1日おきしか薬を飲んでいないという。だから3ヶ月処方すると6ヵ月後に来る。初診までは、どこに受診しても全然良くならなかったと言うのである。少なくとも、簡単な患者さんだったとは思えない。(上の処方の人)
このようなことから、現在のうちの病院への紹介患者は単科精神病院か、国公立の病院が多くなっている。
参考
抗うつ剤治療と主治医との信頼関係
病院には来れば来るほどそれに比例して良くなる
クリニックの代診
カウンセリングをあまり重視していない精神科医
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他院からの転院とその後
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