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Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
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精神科は数字で出ないでしょう!

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ある日、年配の女性患者さんの診察の中で、

もう良くなったので精神科の薬をやめたい。

と言う話が出た。僕は、

たいした量ではないし、薬の副作用が出ているわけでもないので薬を飲み続けた方が良いでしょう。

と伝えた。もちろん、同伴の家族も同じ意見であり、一緒に本人に勧めている。

その際だが、なぜ内科で貰っている高血圧の薬は飲むのに、精神科の薬はやめたいのか尋ねた。僕は思うのだが、どうせ降圧剤も飲まないといけないなら、煩わしさはあまり変わらない。彼女には本質的な点で、精神科の病識などないのである。

彼女の答えはまことに気が効いたもので、

精神科は数字で出ないでしょう!

と言ったのである。確かに、高血圧はスコアで出るが精神科の疾患はそうではない。正確には「そうではない」ではなく、そうではないものがほとんどと言える。

しかし、彼女にはスコアなるものがあったのである。

彼女は少し特殊な精神疾患であり、ある稀な感染症を契機に精神面に変調を来たしていた。従って、広い意味では症状精神病と言える。特にこのタイプの精神疾患は患者さんの家族に意味がうまく伝わらない面がある。

主訴としては、身体疾患は治まっているのに、いつも倦怠感がみられ、家族に何度も同じことを聴くなどが見られていた。また、説明した直後には既に忘れているという。

家庭では、家事が出来ない。買い物も夫が同伴しないとできない。美容室も全く行きたがらない。食欲もなく、テレビも観ようとしない。いつも呆然としており、集中力の低下がみられていた。家族によると高血圧の薬の服用も家族が注意していないと忘れやすいらしい。

認知症として確定したわけではないが、病状的に長谷川式簡易知能評価スケールは測定する価値があると言えた。長谷川式の結果は12点。

この数値は悪いが、認知症とは確定してはいない。この病歴を考慮すると、良くなる可能性も結構高いからである。長谷川式の他、簡易的なものでは、MMSE(Mini-Mental State Examination)も、精神科ではよく実施される。

初診時、倦怠感と不眠を改善するため、ツムラ41とリフレックス7.5mgだけ処方した。リフレックスはうつではないため、いかにも不適切のように見えるが、食欲や不眠を改善し、このために複雑な経過になりにくいのが良い。どうせ長く使わないのもあり、追加したのである。

ツムラ41(補中益気湯) 5g
リフレックス 7.5mg


10日後、
初診以降、少し食欲が出たと言う。まだ体をきつがる。リフレックスからラミクタール12.5mg隔日に切り替え。リフレックスは補助的には良いが、本質的な治療にならない。ラミクタールは一見して良さそうに思われた。

ツムラ41(補中益気湯) 5g
ラミクタール 12.5mg隔日


ラミクタールは良い感じであったが、数日後に発熱し、念のため中止。効果はあったようで好感触であった。とりあえず、ラミクタールからメマリーに変更。ツムラ41は良い。

ツムラ41(補中益気湯) 5g
メマリー 5mg


初診3週間目
なんとなく、日常生活の動きに活気が出てきたという。いつも夜はぼけている感じらしい。もう一度ラミクタールを使う。

ツムラ41(補中益気湯) 5g
メマリー 5mg
ラミクタール 12.5mg隔日


1ヵ月後
ラミクタールを服用した初日の翌日は良かった。すっきりしていた。体力も出てきた。今回は発熱もない。ラミクタール12.5mg連日投与とした。

ラミクタール12.5mg連日投与(他変更なし)

35日目
少しずつ良い。本人はわからないようだが、周囲の者は明らかにわかる変化。表情は前よりはっきりしており、夫も前より全然違いますと言う。物忘れがだいぶん減っている。長谷川式を実施すると12点から17点に上昇し、数値としても改善。体のきつさはないという。体重が1kg増えたらしい。ラミクタールは25mgまで増量し、それを超えて増やさない方針とした。

ラミクタール25mg(他変更なし)

1ヶ月半
ラミクタール25mg連日になってから、家事が出来るようになった。近所の買い物も自分ひとりで出来る。以前より、受け答えがしっかりしている。しかしながら、病識は完全に欠如している。よく言えば、朗らかだが、むしろ多幸的だと思った。(多幸的というのは器質性所見)

3ヶ月目
長谷川式を実施してみた。23点まで上昇。

その後、ツムラ41を中止し、ラミクタール25mgとメマリー5mgを服用し続けている。そして、1年半以上経ってから、最初のような質問をされたのである。

細かいことを言うと、1剤だけ服用するとすればラミクタールだと思われる。

ひょっとしたら、全て中止してもあまり変わらないかもしれないが、中止して悪い結果が出た時のリスクと言うか、痛手が大きすぎる。

降圧剤を飲み続けなければならないなら、これら向精神薬もついでに飲んでおく方が良いと思われる。

その理由だが、現在、本質的に病識が欠如していることも含め、治癒しているわけではないし、この2剤を飲み続ける際の「損失のようなもの」がほぼないからである(重要)。

参考
精神疾患と服薬



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