生命保険に加入している人は、精神科病院に限らず、内科系及び外科系の疾病で入院加療した場合、入院給付金が受け取れる。手術を受けると手術給付金も受け取れるオプションが付いているものも多い。
昔、生命保険の入院給付金は最初の数日は免責になっており、1週間を過ぎて初めて給付を受けられるというルールも多かった。従って、入院期間が短いと給付が受けられなかったのである。しかし、その後、ほとんどの生命保険でこの免責期間がなくなり、初日から受けられるようになった。
おそらくだが、この免責のルールは不評だったんだと思う。その理由だが、入院期間は精神科はともかく、短期間の人が多いからである。
その後、免責がなくなると、非常に短い入院期間の場合、医師の診断書も必要なく自己申告で給付が受けられるようである。その大きな理由は、診断書料として5250円を病院で支払わないといけないからであろう(たぶん。保険請求したために赤字になる。)
例えばだが、この入院給付金を1ヶ月の入院期間で180万円貰ったとしよう。複数の保険に入っていた場合、ありうることである。この入院給付金は非課税なので、180万円には税金がかからない。ただし、受取人が法人の場合、非課税にはならないらしい。(例えば、会社がCEOに生命保険をかけていて、受取人が会社のケースなど)。
一般には、収入に不釣合いの保険の加入は怪しいと疑われるようで、他の保険に加入しているかどうかを加入時に申告しなくてはならない。場合によっては調査をされることもある。(既に発生している疾患のため本人が入院を予定し、保険に加入した場合などは詐欺的とみなされる)
精神科では、1回の入院期間はともかく、数回に及ぶとかなりの日数になる。保険には、同じ疾患での入院給付金の日数の上限があり、度々入院していると、やがて上限に達し、給付が受けられなくなる。また、そのようなルールだけでなく、立て続けに入院した場合(つまり、退院期間が短い時)、給付が受けられないことがある。
医療費控除は確定申告すれば税金還付を受けられる制度であるが、一応、10万円または総所得金額の5%のどちらか少ない方(*1)を超えないと還付が受けられない。
ここはわかりやすいように10万円に該当する収入水準の人について言うと、この10万円は年齢にもよるが、普通に生活している限り、なかなか超えないものである。医療費は一応、自己負担分が主になるので、一般には3割負担である。毎月、1万円、3割負担分を支払い続けてやっと12万である。精神科の外来患者さんの場合、自立支援法で1割負担または上限が1ヶ月数千円になっている人が大半なので、この10万を超えるのはかなり難しい。しかし入院すると容易に超えるのが普通である。
医療費控除には、病院で支払う自己負担分だけでなく、薬局で買う風邪薬なども入れて良い。だから、10万を超えるような人はこのような風邪薬や痛み止めの薬も領収書を取っておくべきだ。
また遠方の医師までかかる場合、その交通費(バス代、JR費用、航空券代など)も算入可能だが、宿泊した場合、ホテル代までは出ない。また交通費は出るのだが、なぜかガソリン代は算入できない。たぶんだが、ガソリンを含めて良いとなると、よくわからなくなるからだと思われる。
病院で支払うものでも美容のための手術費用は医療費控除には含まれない。また差額ベッド代なども含まれない。
この医療費控除だが、最初に出てきたが、入院給付金を受けた場合、それが差し引かれるため、医療費控除の10万円に達しないケースが増える。この数式だが、
(1年間に支払った医療費)-(生命保険の給付金など)ー(上の*1)
この医療費控除額の上限は200万円である。今は、高額療養費制度により入院治療でさえ上限が下げられているため、この200万円に達する人たちは、よほどの高額所得者である。
この意味であるが、入院治療には総額が高くなっても1ヶ月の医療費は以下の式により決められているからである(条件的なものを言えば、70歳未満で標準報酬月額が53万未満の人)
80100+(医療費-267000)×1%
従って、1ヶ月の医療費が45万かかった場合、
80100+(450000-267000)×1%
となり、必要な真の治療費は8万5000円以下になる(1ヶ月)。ただし、対象外の医療費として、入院時の食事代、日用品、差額ベッド代、保険適応外の医療費、先進医療にかかる費用などは含まないので、この額よりは高くなるが、普通は深刻なことにはならない。その理由だが、精神科の場合、入院期間が長くなる場合、数ヶ月すると医療費の最初の80100円の基準が下げられるからである。
なぜ医療費を45万と書いたかと言うと、毎月新患の一般病棟の入院患者さんのレセプトをチェックしていると、45万~48万くらいの人が多いからである。普通、一般病棟では1ヶ月を超えると入院費が急速に下がるので、医療費もかなり下がる。
しかし、患者さんの自己負担分は上の数式に当てはめるとわかるが、あまり変わらない。むしろ数ヶ月して基準が下がることや、精神保健福祉手帳などの級により減額される影響の方がはるかに大きい。
昔は、医療費はまず病院に支払い、その後、領収書を役場に持って行き、還付を受けるという手順であった。しかし、この方法だと、大変な額の医療費がかかった場合、まず3割分が支払えないのである。
特殊な例だが、急性膵炎で入院した場合、1ヶ月の医療費が1000万かかることがあった。この場合、単純に考えても3割負担で月額300万である。いずれ大部分が返って来るとしても、病院に支払うお金が準備できない時は、領収書をもらえず還付も受けられない。
このようなこともあり、その後、入院時に精神保健福祉士のサポートで手続きしておけば、支払い&還付の手順が簡略化され、そのまま必要な入院費を支払うだけで良くなっている。この制度は、未収金を減らすためにかなり役立っている。
この高額療養費の制度を受けられないほどの高額所得者は、相当な税金を支払っている上に税率も高いため、結局、税金の医療費控除で還付を受けられる。長くなると1ヶ月の医療費は療養病棟でない限り、一般病棟で普通30万円台なので、3割負担でも高額にはならない。
このようなケースでも、精神科単独で医療費1年間200万は困難なのである。つまりだが、この3つの制度は相互に欠点を補い実にうまくできている。
オバマ政権が日本のように医療保険制度を導入しようとした際、反対派は、
医療保険制度は共産主義的な制度だ!
自由の国、アメリカには似合わない。
と路上のデモでアピールしていた。実際、そのような面はかなりあると思われる。
ある意味、日本の高度成長時代に成立していた医療保険制度は、共産主義社会のあるべき理想の一部だったのかもしれない。
しかし超高齢化社会や少子化、長いデフレで、医療保険制度は破綻しようとしているのである。
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入院給付金、医療費控除、高額療養費制度の話
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