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悪性症候群様病態以後の忍容性の低下

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悪性症候群と呼ばれる病態は、このブログでは薬の副作用といった捉え方はしておらず、非定型精神病的破綻状態の1つと記載している(参考)。その理由は、そのように考えた方が、遥かに矛盾なく病態を理解できるからである。

このような中核的と思われる破綻時には服薬できないので、治療的には空白時間ができる。

服薬をほぼ中断するのは、継続すると破綻に拍車がかかり、死に至ることもありうるからである。一般に、明らかに診断基準を満たす「悪性症候群」様病態で、抗精神病薬や抗うつ剤を継続している医師は滅多にいない。

過去ログでは、悪性症候群の状況でも、温和な作用を持つベンゾジアゼピン系眠剤はむしろ継続した方が治療的と記載している。その理由だが、本来の非定型精神病的病態による全く眠れない状況では賦活状態に一層、拍車がかかるからである。

その視点では悪性症候群様病態では、一般的な抗精神病薬や鎮静的抗うつ剤では鎮静ができない特殊な局面と考えられる。

しばらくの期間、服薬を中止し、点滴や一般的な悪性症候群の治療薬(ダントリウムやパーロデルなど)を続けるが、どのタイミングで抗精神病薬を再開したら良いものか迷う。

その理由は、全く動けない状況、食事も全介助で寝たきりの状態が長く続くと、その後も身体的に拘縮などが生じ、将来的に「その動けなかったことによる後遺症」が残りかねないからである。

この視点は一般的な精神科医とはかなり異なる。

その理由は、動けないことは「悪性症候群が残遺している」ためとは考えていないからである。この視点こそ、悪性症候群を精神病と一連のものと捉えている証拠である。

ある時期、ある統合失調症の女性が、検査所見的に典型的と思われる悪性症候群を呈した。ところが、薬を中断しただけでは、回復はしたものの全く動けるようにはならなかった。

セロクエルやエビリファイなどの比較的処方開始しやすい抗精神病薬を少量処方しても、容易に筋強剛が悪化、また発熱しCPKも上昇を来し、いつまでたっても本格的に薬物治療が再開できなかった。

しばらくして家族に、今の状況を打開するためにはECT(電撃療法)しかないことを伝えたが、家族は病態やその必要性について、なかなか決断できなかったようである。

ところが、頻回に面会していた家族もこのままでは埒が明かないことが理解できたらしく、発症後、やっと2ヶ月目でECT実施の了承が得られた。

そこで、ECTを実施した。初回はシングルで実施したが、筋強剛の改善は一時的なものに留まり、6時間くらいでほぼもとに戻ってしまった。しかしながら、一時的に改善が見られたのは確かであり、2日後にダブルで実施した。初日シングル、2日後、ダブルで実施以後、昏迷から脱し、会話が普通にできるようになり、筋強剛が改善したのである。

また、ベッド上で自力で介助なしで食事ができるようになった。これは不十分とはいえ、大変な改善であった。(看護師、看護助手さん全員が驚愕するレベル)

ECTの良いところは、数回の実施で有限の期間であるものの精神症状も改善してしまうことである。つまり、しばらくは薬なしで良いという点で優れている。

自分の場合、このような状況でも、ステレオタイプにECTを継続することはしない。あくまで対症療法の1つなので、精神、身体面の改善がある程度みられたら、そのまま経過をみる。

その理由だが、続けたら続けただけ永遠に良いというわけではないからである。結局は薬物療法に戻るなら、再開すべき時期を判断すべきである。

ECTは悪性症候群的な病態に効くため、薬物が再開しやすい面がある。しばらくして、たぶん2週間目くらいだが、薬を再開しない時期に少し悪化したため、もう1日、ダブルでECTを実施している。

その後、笑顔がみられるようになり情緒もかなり改善した。なんらかの異常体験は残るようであるが、目立たないレベルになったのである。

結局、その後も紆余曲折があり、やっとジプレキサ5㎎ほどが服薬できるようになった。ジプレキサを5㎎処方しても、筋強剛や発熱、CPK上昇が生じない。

しかし困ったことに、2か月間ほど筋強剛とともに固まっていたため、足の拘縮が生じ自力歩行できなかった。多少リハビリが必要なのである。

ECTがもう少し早い時期に実施できていれば、このような事態は起こっていたとしても軽かったであろう。今そのようなことを後悔しても仕方がない。少なくとも言えることは、まだ取り返しのつかない事態には至っていないことだった。あれが半年続いていれば、更に深刻なことになっていたと思う。

その後、リハビリを続け、歩行器で自力歩行できるようになった。このような経過から、まだそう高齢とは言えない年齢なので、かつての状態に戻れることを確信した。

今回の記事のタイトルだが、このような経過を辿ると、ずっと忍容性が低下し、かなり少量の抗精神病薬でコントロールできる人が多いこと。

この患者さんは、発病当時の若いころからほとんど退院したことがないようなレベルで、かつてはそれなりの処方だった。

2005年頃の処方
トロペロン 12㎎
セロクエル 400㎎
リスパダール 3㎎
他、眠剤、アキネトン、便秘薬など。


その後2012年頃には、
トロペロン 6㎎
セロクエル 200㎎
リスパダール 1㎎
ラミクタール 12.5㎎
他、眠剤、アキネトン、便秘薬など。


まで整理できていた。2005年頃の処方はやや多いが、長期入院の重い病状の人では滅茶苦茶と言うほどではない。

現在、彼女はジプレキサ5㎎程度がやっと服用できるほどで、それ以上服用できそうにないし、必要性もなさそうに見える。

彼女のこれら一連の病態はかなり特殊と言えるが、その後著しく忍容性が低下し、たいして服薬できなく人の方が多い。

これは、精神医学的に精神病の長期経過で突如生じた非定型精神病病態の理解を含め、非常に意味がある結末だと思っている。

参考
悪性症候群の謎
悪性症候群の謎(補足)
精神症状身体化の謎
死生命あり、富貴天にあり


                        


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