特に高齢者のうつ状態では不安感や心気的訴えが多い。また、時に消化管にまつわる荒唐無稽の妄想ないし異常感覚を伴うことがある。
従って、高血圧や心窩部痛、口腔内の違和感、腹部膨満感、便秘ないし下痢傾向は「うつ状態」そのものが原因であることも考慮しなければならない。
うつ状態の治療が不十分なために胃腸の調子が悪く、数種類の胃腸薬を服用していたり、うつ状態による不安緊張から高血圧を来し、降圧剤が投与されていたりする。
適切に抗うつ剤ないし気分安定化薬が投与され、精神症状が改善してくると、次第に内科薬を中止できることの方が多い。
特に、降圧剤が中止できることは良くある。一般に精神面が安定してくると、副交感神経優位になり、自然と血圧が安定するのが普通である。
抗うつ剤は、適切量が投与されていないケースでは、少なくとも多めに入っているよりは長期的弊害がむしろ大きい。
その最大の理由は、長期にわたる治療域に達しない抗うつ剤投与のため、抗うつ剤の反応性が悪くなり、ひいては難治性に至ることも稀ではないからである。
また、効かない抗うつ剤は見切りをつけて、積極的に他に変更する方針が結局は良い。なぜ良くならないのにそのまま維持されるかと言うと、打つ手がないと思われているのもあるが、うつ状態の治療の到達点が明確でないこともある。(参考)
現代社会では、効果的な抗うつ剤の併用療法(サインバルタ+リフレックスなど)、リーマス、デパケンR、ラミクタールなどの気分安定化薬、あるいはトピナ、ガバペンなどの抗てんかん薬も試みる方が望ましい。
ごく最近、高齢者のうつ状態から来る頻尿が、ガバペンの併用で魔法のように軽快した。過活動性膀胱の薬など必要なかったのである。
今の精神医療は想像性も必要である。いろいろな手を打って調子が悪いのと、手を打たず放置に近い状況で調子が悪いのでは、意味が全く違うし、患者さんにも受け入れられない時代になった。
精神医学は実に奥行きがある学問だと、日常、良く感じている。
参考
老年期のうつ病は
全般性不安障害と向精神薬
うつ状態はどうなったら良いのかが明確でない
抗うつ剤治療と主治医との信頼関係
謎の胸痛とアモキサン
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抗うつ剤は適切量使わないと内科の併用薬が増えてしまうこと
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