今日のエントリは相当にオカルトが入っているので話半分で聴くように(笑)。
精神科病棟は副交感神経優位になる「何か」があると、患者さんの心に影響し、やわらかい鎮静的効果をもたらすと考えている。
この「何か」とは、まず病棟の内装などが挙げられる。建築的に配慮した造りとか、壁やクロスの色合い、フローリングないし床の木調や色や硬度なども無関係ではない。それ以外にも、医師、看護師などスタッフだけではなく、病棟生活を送っている患者さんそのものも含まれる。
2007年の過去ログに、「おとぎ話の世界」と言う記事がある。これは2001年の日記から抜粋したもので、以下、再度紹介。
僕は一般の精神病院の慢性病棟で境界例を治療したことが数回あるが、大学病院より、よほどうまくまとまると思った。というのは、その病棟は長期に入院しているおばちゃんが多く、皆のんびりしている。他にあまり病状が悪い人はいない。そんな時、若い女性が入院してきても、あまり動じないというか、まぁ孫みたいなもんだし、彼女がどんな風にしても受け入れてくれていた。 周囲は圧倒的に余裕があって、けっこう彼女の話も「ふん、ふん」と頷いて聞いてくれる。まぁ、おとぎ話のような世界だろう。確かに精神科の慢性病棟は浮世離れしたところがある。
上の記事を読むと、なんとなく雰囲気は伝わると思う。
病棟建設の前に、建築士の方と県内や他県のいくつかの精神科病院を見学に行ったことがある。その際、建築自体は素晴らしいのに、病棟に入った瞬間、どうも落着けない不思議な感覚に陥る病棟があった。
同じような体験は、精神鑑定や措置鑑定で、他の病院で診察をした際にも生じることがある。その病院に行くことが初めてだったりするとやはり緊張するものだが、それ以外の何かがあるのである。
なんだか落ち着けない病棟だな・・
とか、
空気が張りつめている・・
など見えるものではなく無形なものである。
精神疾患を持つ人たちはその辺りは感じ取りやすいので、ゆっくり療養できないかもしれないと思う。
ある日、転居のため市内の遠方に転院する若い女性患者さんがいたので、一度、転院する前にお母さんと一緒に病院見学に行ったらと勧めた。たぶんケースワーカーが院内を紹介してくれるでしょう、と言った風である。
なぜ、そのようなことを言ったかと言うと、彼女は今後、再入院する可能性が高いからである。外来だけで済みそうなら、たぶん言わなかったと思う。その病院は新しく病棟を建て直してまだ5年も経っていないので、病棟はかなり綺麗ではないかと言っておいた。
見学後の彼女の感想だが、
病院に入ったとたん、なんだかヤバい感じだった。お母さんも同じことを言っていた。
という。(今の若い女性は「ヤバい」という言葉を良く使う)
「病院は綺麗だったでしょう」と言うと、確かに綺麗だったけど、それ以外に受け付けないものがあったらしい。
その後、彼女は転居を取りやめ、今もうちの病院に通院している。
実は、鎮静的な病棟がすなわち副交感神経優位な環境なのか、自分でも自信がない。むしろ副交感神経優位だと賦活的ではないかと思うこともある。
少なくとも言えることは、一般的にヒトは副交感神経優位になると眠くなる。また、副交感神経優位の環境では薬が効きやすいと思われる。これは飲みに行き自宅に帰り着いた瞬間、眠気がどっと襲ってくるのを見てもわかる。帰った瞬間、酔いが一気に回るのである。
従って、副交感神経優位だと、抗精神病薬のように交感神経遮断薬であれ、抗うつ剤であれ、少量でも効果が出やすくなるので、鎮静・賦活、いずれの結果も出やすいとは言える。
ここでいうのは、何も薬を使わない状況をいう。何もしないでも、鎮静しやすい環境と、賦活的環境があるという意味である。
統合失調症の人で興奮状態ないし幻覚妄想状態に至ると、本人自ら保護室に入れてほしいと希望する人がいる。これは自我異和的に訴えているのではなく、単に保護室にいることで安心が得られるからだと思う。このような人にとって保護室は鎮静的環境である。
保護室の壁はシャイニングに出てくるトイレの赤い壁のようなケバさはなく、モノトーンの落ち着いた色調なことが多い。何もないことも感覚が過敏な状況では鎮静的である。
表現が難しいのは賦活的環境である。賦活的環境は、単に部屋の明るさも影響するように思う。
ある日、入院した途端になにもしないで元気になった人がいた。厳密には、入院初期には重い頭痛がそれまで続いており鬱陶しかったようであるが、次第に気分が晴れてきたという。
彼女は、約40日くらい入院したが、退院時には長年続いたその頭痛がすっかり取れてしまっていた。そして退院後、頭痛が再燃することはなかったのである。
彼女は入退院前後で薬は変わっていないので、その賦活的環境が良かったとしか言いようがない。彼女の場合、その前の入院時は鎮静的な環境で治療して軽快退院したが、頭痛は残遺していた。
勘違いしてほしくないのは、鎮静的環境はうつ病の人はふさわしくないとは言えないこと。不安感が強く、焦燥感を伴うタイプの人は鎮静的病棟の方が落ち着くものだ。
彼女が訊いた。
いったい、何が良かったんでしょうか?
僕は答えた。
たぶん、風水みたいなものが良かったのでしょう。
これで1回目と2回目入院の相違の説明になっているからである。かろうじてだけど。
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鎮静的な病棟、賦活的な病棟
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