Quantcast
Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2198

更年期障害に生じる聴覚過敏

$
0
0

今回は、女性の更年期に起こる聴覚過敏、うつ状態、幻覚についての話。

普通、更年期には女性ホルモンの減少などの影響により、精神症状が出現することがある。これらは症状性のものである。

従って、この時期に幻覚妄想状態が起こったとしても、統合失調症とは診断されないことが多い。もちろん、操作的診断法から統合失調症と診断する精神科医もいるが、そう診断しない精神科医の方が遥かに多い。

既に統合失調症などの精神病が生じている人には、更年期に病状の悪化が生じることがある。書籍では、平均してこの年代まで男性より女性の予後の方が良いが、この時期に男性に追いつくように見えるなどと記載されている。(過去ログ参照)

神経症やうつ病に人たちも、この時期には病状が変化することが多いが、人によれば別な疾患に罹患し(膠原病など)、更年期により症状が変化しているのか、新たな疾患あるいは治療薬によるものかわかりにくいこともある。

ある時期、元々うつ病の診断で治療していたが、ほぼ寛解状態に近い女性患者さんがいた。典型的な病状ではなく、身体疾患に由来するのではないかと話したこともあり、実際、大きな病院で精査してもらったことがある。彼女にはばち状指があったからである。

過去ログで胸腔内の疾患で精神症状が出やすいと言う記載をしている。一般には肺炎や肺癌、あるいは胸郭出口症候群なども含めて良いのではないかなどと言及している。リエゾンをしていると、そういう考え方になりやすい。

ばち状指は、肺疾患や心疾患でみられることがあり、そのために何らかの精神症状が出ているとしたら、なんとなく全体の辻褄があう。

しかし、精査をしてもこれといった疾患はみつからなかった。

当時、彼女はうつ状態が次第に回復し、ソラナックスだけ服薬していた。ソラナックスの代わりにリボトリールだけの時もあり、少なくとも抗うつ剤は必要でなくなっていた。

更年期になった当時、鳥の鳴き声や救急車のサイレンにすぐに反応するようになり、電化製品のわずかな音にも異常に敏感になった。そのために気持ちが落ち着かないという。

本人は当初、「入院して気持ちを落ち着かせたい」と話していたが、発病以来、精神科への入院歴がなく、決断できなかった。

婦人科に行ったところ、「更年期障害でしょう」と言われ、ホルモン剤を注射されたという。

婦人科での対処があまりにも安易だと思ったが、かといって、他科の行う医療についてとやかく言わない方針なので、

更年期障害の治療については、いろいろな考え方があるので、他の婦人科でも数軒相談してみては?という助言に留めた。

この年代の聴覚過敏にはドグマチールが良さそうだが、更年期だと、無月経を積極的に生じさせるドグマチールは処方しにくい。それはリスパダールも同様である。(禁忌と言うわけではない)

このよくわからない聴覚過敏には、うつ状態や意欲の低下も伴っており、抗うつ剤も処方した方がよさそうに思われた。そこで、処方しやすいリフレックスを処方したが、副作用もないかわり、効果もほとんどなかった。

もう少し工夫が必要といったところである。そこで、エビリファイを1.5㎎だけ追加してみたのである。本人によると、

エビリファイを飲むと少し良い感じはある。しかし、物忘れがひどいし、いつもメモしないといけない。引っ越さないといけないが、とてもじゃないがその元気がない。特に夕方にかけて具合が悪い。

などと言う。物忘れは、いつもぼんやりしているような感じらしく、服薬する前から既に聴覚過敏とともに起こっていた。

ここが興味深いところで、たぶんこの集中力と言うか、ごく僅かな意識レベルの低下と「聴覚過敏」はセットになっているのである。この視点は非常に重要だと感じている。(本当にそうかどうかはともかく)

そこで、思い切ってサインバルタを勧める。彼女はリフレックスを飲んでいても食欲は上がらず、体重は30㎏台なので、せめて40㎏はほしいという。

サインバルタは食欲や体重を増やさないタイプの抗うつ剤だが、この人に限れば、うつや聴覚過敏が改善すれば、食欲は上がってくると思われた。食欲不振はうつ状態の1つの症状である。また、聴覚過敏も広い意味のうつから来ていると言える。

サインバルタは20㎎から始めた。この一連の治療で、追加した薬はリフレックス15㎎、エビリファイ1.5㎎、サインバルタ20㎎である。

サインバルタを追加したところ、2週間以内に全てが著しく改善した。彼女によると、「音への敏感さがなくなり、全く気にならなくなった。車のウインカーの音がたまらなかったが、今はそれがない」という。

また、物忘れが激減し食欲も出てきたという。「ずっと悩んでいた引っ越しも済み、家の中も片付いて良かったです」という話だった。

今回の話は、いかにも非定型精神病、それも最初の場面で一気に収拾した経過だと思う。彼女は過去ログにある典型的なウェールズタイプの性格ということもある。

彼女の場合、婦人科での更年期障害の治療なんて必要なかった。精神科での治薬物療が、そのまま更年期のホメオスタシスの激変の治療になっていたからである。

(おわり)

参考
エストロゲンと精神疾患
ウェールズ生まれの
ウェールズの人の発症、寛解のパターン(前半)
非定型精神病とリーマス
リエゾンでのせん妄


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2198

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>