2018年1月11日厚生労働省から、エビリファイ(アリピプラゾール)について副作用の注意喚起がなされている。以下参照。
厚生労働省は1月11日、統合失調症などの治療に用いられる抗精神病薬で、エビリファイ錠やアリピプラゾール錠の名称で販売されている「アリピプラゾール」の投与後、病的賭博や暴食などの衝動制御障害が現れたとの報告があることから、投与後に患者の状態を注意深く観察し、必要に応じて減量や投薬中止などを行うよう、医療機関に注意を呼び掛けています。
(1)抗精神病薬の「アリピプラゾール」(販売名:エビリファイ錠3mgほか後発品多数)、「アリピプラゾール水和物」(販売名:エビリファイ持続性水懸筋注用400mgほか)
▼【重要な基本的注意】に、「原疾患による可能性もあるが、本剤投与後に、▽病的賭博(個人的生活の崩壊等の社会的に不利な結果を招くにもかかわらず、持続的にギャンブルを繰り返す状態)▽病的性欲亢進▽強迫性購買▽暴食―などの衝動制御障害が現れたとの報告がある。衝動制御障害の症状について、予め、患者および家族等に十分に説明を行い、症状が現れた場合には医師に相談するよう指導する。また、患者の状態および病態の変化を注意深く観察し、症状が現れた場合には必要に応じて、▽減量▽投与中止―など適切な処置を行う」旨を追記する。
過去ログでは、エビリファイと恋愛感情や性的放縦に関しての記事がある。
2008-02-04 18:55:20
エビリファイと恋愛感情
前から思っていたんだけど、エビリファイは過去に性的な問題があった人たちは良くないね。たぶんこんな人もあまりいないと思うのだが、統合失調症で過去に婦女暴行で捕まったような人にはエビリファイは合わない。下手をすると再び事件が起こりかねない。うちの病院でもう長く入院している患者さんだが、ある時、エビリファイ主体にしてみた。9~12mg処方していたんだけど、やがて性的に浮ついたような感じになり、20歳くらいの若い看護助手の胸を触るという事件が起こった。おまけに悪びれず、「気持ち良かったですか?」なんて聞いている。
その患者さんは、そこまで崩れているような人ではなかった。しかし、ずっと昔、発病頃に婦女暴行事件で逮捕されているんだな。近年はずいぶん良くなったので退院させて共同住居に入所させようかと思っていた。結局、その人はエビリファイを中止している。今はセレネース6mg、ロドピン100mg、リーマス800mgくらいの処方になっているが、この方が病棟生活では平穏にみえる。この処方にしてからも、しばらく性的な面でしばらく不穏だったが、少しずつ落ち着いてきている。
エビリファイは性機能の副作用があまりないのがメリットだが、こういう人たちには良くないのだ。
他の患者さんで、やはり窃盗歴がある統合失調症の患者さんだけど、エビリファイを6mgだけ併用で使ったところ、ある日、病棟の屋上を蝶のように舞っていた。なんと、屋上から女性用の風呂の窓まで行って、中をのぞき見していたのである。しかし本人に聞いたら、湯気と角度が悪くて全然見えなかったと言う。
これって、一般社会では明らかに犯罪。もともと触法性のある人はこんな時に、セーブが効きにくいみたい。
他にも、ある女性職員にやたら恋愛感情を抱くようになった患者さんがいる。この人の場合、元々そういう傾向はあったのだが、言うことが激しいのだ。すぐに結婚したいとか、明日からでも働きますとか。エビリファイは回春作用があるのかもしれないね。
薬物療法は予想外の有害作用が出ることがあり、ちょうどピッタリにならないから難しい。
上は2008年の2月の記事で初期の臨床感覚が実際に近かったことがわかる。
また、以下のような記事もある。
2008-02-22 18:15:25
双極性障害と性的放縦
性的放縦などというと、すぐにボーダーラインを思い浮かべそうだが、臨床的には双極性障害でも出現しうるし、エビリファイやジプレキサのように元気が出る系の抗精神病薬のためにそう見えることもある。ずっと以前だが、あめぞうに「セックス依存症」というスレッドが立ち、けっこう盛り上がっていた。一般の人からみると、こういう感じの人なのかもしれない。普通、性的放縦というと、女性に対する言葉と思うが自信なし。
僕はSSRIは今日的な意味の性的放縦になりにくいと思う。一般に性欲は減退し、そんな気にならないと思うから。ただ、微妙に形が違っていて、「もうどうでもいいや」という感じで、それに近い状況はありうるような気もする。SSRIは人生を刹那的に見させる傾向は確かにある。これは、性欲が必ずしも亢進していない性的放縦なのかもしれない。
双極性障害の女性を、エビリファイやジプレキサで治療しようとすると、性的な問題が出現して、とんでもないことになることがある。だから、僕は今ではエビリファイやジプレキサの双極性障害への処方は、一時より慎重になっている。ならない人は全然大丈夫なんだけど、そのようなものに親和性がある人は、それが促進されるように見える。いろいろ苦労をすると、リーマスのありがたみが良くわかるよ(参考1、参考2)
リーマスは決定力のある薬だが、例えば多飲水などが出てきた場合、こちらのモチベーションが一気に下がる。先日もリーマスを処方している若い女性が、順番を待つ間、待合室で水を2本も飲んでしまったという。この日、僕はリーマスを諦めた。
同じ多飲水でもリーマスや抗精神病薬の多飲水の場合、その神経毒性が見えてしまってどうも嫌な感じ。しかし3環系抗うつ剤の口渇による飲水は、神経毒というより単に末梢の副作用のように見えるので、まだ許せるというか、ずいぶんマシのような気がしている。(リーマスの場合、代替薬の幅が狭いため多飲水でも服薬した方が良いこともある)
エビリファイは今でも謎すぎる薬物で、その人の輪郭が定まらない薬ではあると思う。ふわふわして、きちっと人格が定位しないのだ。だから、他の抗精神病薬や気分安定化薬を併用するなど工夫もするが、それでうまくいく人もいれば、相当に時間が経ってから、やっぱりダメだ・・という感じになる人もいる。
最近、統合失調症の人で、1年以上エビリファイを続けていたのに(15~18mg)、痺れを切らしてこの薬を諦めた女性がいる。辛抱するにも限度があると言えた。彼女は入院させて治療をやり直した。現在、ジプレキサを15mgほど処方していて以前よりずいぶんマシになった。彼女は抗精神病薬に限れば単剤である。エビリファイの時とどこが違うかというと、生活に落ち着きが出てきたこと。エビリファイでは関心が散漫になって、真の意味で落ち着かないのだ。最近退院させたが、今度はもう少しやれるかもしれない。このように1年以上我慢して、決定的なものが不在なまま、やはり中止するというのは従来の抗精神病薬になかった新しいパターンかもしれない。いわゆるボクシングでいう「判定負け」である。
ところで、ボーダーラインは経過を診ているうちに、どうみても双極性障害としか言いようがない人たちに遭遇する。経過中、双極2型が見えてくるのである。僕はもう長いこと新患でボーダーラインという診断を下したことがない。症状的にはそういう風に見えても、いま1つ腑に落ちない点があるためだ。真のボーダーラインがどの程度存在しているのかは相当に謎だ。(このような疑問はブミ氏も過去ログの中で語っている)
僕は性的逸脱行動を、パーソナリティの問題として簡単に決めつけないように看護師さんに指導している。これは気分安定化薬で様子が変わってくることがあるから。気分安定化薬で変わってくることは、すべてがパーソナリティの問題では片付けられないことを暗示している。また、周囲の者がそういう風に見てしまうと、その子もいっそうそんな風になってしまうところがあるのも嫌だ。以心伝心というものかもしれない。こういうのを見ても、人間のお互いの信頼関係はすべて相対的なものなんだと思う。
僕は、「操作的診断のボーダーライン」の人たちは、おそらく旧ソ連かタマネギのようになっているような気がしている。
現在、ロシアが内政に対し厳しい姿勢で対処しているのは、かつてそうだったように衛星国がタマネギをむくように独立し国が細っていくからだ。ロシアはむけばむくほど、更にむけるところはある。ロシアは大国でなければならないらしいので、これも仕方がないと言える。
ボーダーラインはこのようにタマネギをむいていくと、最後にロシアが残るような気がする。このロシアこそ、おそらく双極2型なのだろう。あるいは、非定型精神病であったり、ひょっとしたら症状性精神疾患(アトピーに伴う精神疾患、SLEによる精神疾患など)ということも十分にありうる。
症状精神病についての補足だが、元々ボーダーラインの人たちは、アトピー、その他のはっきりしない皮膚疾患など免疫系に何らかの脆弱性があるのをみることがあるのもそれを示唆している。
双極2型についても、経過中に非定型精神病像を伴ったり、身体的な問題を孕んでいることもよく診られる。だからこそだが、いっそう生物学的要因があるようにみえる。ボーダーラインは本質的に何もないのではなく、何かある可能性の方が高いような気がしている。
ただ、本当にタマネギになっている人も実在する。彼女たちはタマネギをむいていくと、最後には何も残らないのである。このような真に機能的なボーダーラインこそ、まだ発見されていない理想的な治療をすれば、跡形もなく消えるような気がしている。しかし、おそらくこんな人は天然記念物級の稀少品種であり、個人的に、このような人はボーダーラインと言うべきではないと思っている。おそらく病気ですらない。こういう風に考えていくと、今日的なボーダーラインはほとんどなくなってしまうのである。
ところで余談だが、猿にタマネギをやると、むいていくのは良いが、最後までむいて何も残らないので、何個もむくうちに終いには腹を立てるらしい。僕は猿がタマネギで腹を立てるのも面白いと思ったけど、涙を流すのかどうかも、もっと気になった。
僕は、時々、現代的な双極2型の人や非定型精神病を治療していて、ボーダーラインの断片みたいなものを見かけることがある。双極2型のパーソナリティは、今の操作的診断法のようにボーダーラインを広くとってしまうと、けっこうオーバーラップしているのかもしれない。
あともう1つ。タマネギをむいていくと、最後にもうなくなったかな~と思ったら、
あれっ?
と、リヒテンシュタインのような小国を見つけることがある。
このブログで紹介した女性患者さんはエビリファイ1.5mg、セディールくらいの処方ですっかり落ち着いている。今は働いていてほぼ治癒に近いのに、たまに少し不機嫌になり、親に当たることがあるという。(母親の話。特に冬場)
母親や父親のせいで「自分はアダルトチルドレンになった」と言って責めるらしいのだ。
アダルトチルドレン?
そんなのあんの?
誰がそんな言葉を教えたんだ!
僕が治療する以前に、ボーダーラインと決めつけられて、そんな風にいじられたのだと思う。その「アダルトチルドレン」こそ、リヒテンシュタインなのかもと思った。
存在すると確定していないものを勝手に教えたらダメでしょ。
「アダルトチルドレン」の何がダメかというと、思考が過去に向かっているから。今まではともかく、これからの自分がなんとかならないと仕方がないでしょ。
この言葉は、家族の人間関係も悪くさせるしね。僕の感覚だと、アダルトチルドレンと言う用語はあまりにも癒しがない。ウイローが更に必要になってくるのがダメなんだと思う(参考)。
(リヒテンシュタイン以下は半分冗談)
この記事のタイトルに沿ったキモの部分は、
双極性障害の女性を、エビリファイやジプレキサで治療しようとすると、性的な問題が出現して、とんでもないことになることがある。だから、僕は今ではエビリファイやジプレキサの双極性障害への処方は、一時より慎重になっている。ならない人は全然大丈夫なんだけど、そのようなものに親和性がある人は、それが促進されるように見える。いろいろ苦労をすると、リーマスのありがたみが良くわかるよ。
といった部分である。過去ログでは、「エビリファイは強迫によくない」と言った記載をしている。
参考