ジプレキサ(オランザピン)、セロクエル(クエチアピン)、クロザリル、シクレストは同じMARTAのカテゴリーの非定型抗精神病薬である。今回はジプレキサとシクレストの効き方の違いについて。
上記4剤のうち特にジプレキサはあらゆる方向に薬効が実感できる非定型抗精神病薬である。これは様々なレセプターに作用を及ぼすためで、肥満しやすい原因の1つにもなっている。あらゆる方向とは、抗幻覚妄想、鎮静、賦活、抗うつなどの作用である。
それに対しシクレストは古典的な抗精神病薬っぽい薬効を示し、もしこの薬がMARTAの1つという知識がないなら、医師はそれに気づかないほどだと思う。それほど、シクレストは明確な陽性症状以外の薬理作用が実感できない。
例えば、ジプレキサはごく少量(1.25㎎以下)処方することにより、かなり良い抗うつ作用が診られる人がいる。エビリファイ的な処方である。
しかし、シクレストは例えば仮に1㎎錠があったとしても、抗うつ作用など期待できそうにない。そもそもシクレストは最も小さな剤型が5㎎錠の上に、舌下錠なので少量投与が難しい。
シクレストは単に幻聴などの陽性症状には有効だが、MARTAと言うには直線的な抗精神病薬でジプレキサやセロクエルっぽくないのである。
ジプレキサからシクレストに変更した人で、数か月~1年後に再びジプレキサに戻った人がいる。数か月~1年というと結構長い期間でシクレストでもそこそこ良かった人たちである。なぜジプレキサからシクレストに変更したかと言えば、体重を減らしたかったからである。
しかし数か月するとどうもよくないと思った。シクレストは「日常生活に潤いが出る」とかそういうお洒落な効き方はしないのである。つまり過去ログでも出てくるが、シクレストにはジプレキサのように薬理作用の厚みがない。むしろ、ロナセンやエビリファイの延長上にあるように見える。
結局、1年くらい経って、あまりに空虚になったのでジプレキサに戻した。その後、どういうことが起こったかと言うと、デイケアに参加するようになった。また引きこもり傾向が改善し外に出たり、A型やB型事業所に行くようになったのである。
だいたい、シクレストとジプレキサでは彼らの姿勢や服装の様子が違っていた。表情や覇気が段違いなのである。これらを診ると、抗精神病薬は単に幻覚妄想を止めればよいわけではないのがよくわかる。
一方、ある患者さんはシクレストとジプレキサではそれらの陰性症状的な所見の差がない。このような人は長期的にシクレストが優れている。
ジプレキサが素晴らしくフィットしている人であればあるほど、うまくシクレストに変更できないのである。
ジプレキサのバランスを持ち体重が増えにくい新薬が開発されてほしいものである。