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高齢者の認知症と抗うつ剤

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認知症の前駆症状としてうつ状態が診られることがある。今回は認知症のうつ状態や興奮、暴力などの随伴症状と抗うつ剤の話。

 

高齢者にうつが診られる際、最初に抗うつ剤が投与されることが多い。その後、認知症が顕在化することがある。一般に認知症に「抗うつ剤は避ける」というルールはないしもちろん禁忌でもない。

 

人によれば時間の経過とともに認知症が主症状になり、うつは問題にならなくなることもある。そのような流れだと、認知症薬と抗うつ剤の併用処方になりやすい。実際、リエゾンや高齢者施設から来院する高齢者によくある処方である。

 

高齢者で介護に対する抵抗や暴力(介護者に噛みつく、殴るなど)があると、更にバルプロ酸Naやクエチアピンが併用されるなど複雑な処方になることもある。

 

今回は、この複雑な処方、特に抗うつ剤の精神症状への悪影響についての話である。

 

一般に精神疾患は認知症に限らず「時間」は重要なパラメータであり、病態が変化したらそれに応じて変更した方が良いケースが稀ならずある。例を挙げれば、うつ状態で治療中に躁状態が診られたら、抗うつ剤を中止し気分安定化薬を主体に治療するなどである。

 

これは首尾一貫しない治療とは言えない。基本的に精神科は対症療法だからである。上ではうつ病と双極性障害を例として挙げているが、双極性障害はうつ状態で初診することが多いためである。

 

 

抗うつ剤が処方されている高齢の認知症の患者さんで、既にうつ状態の所見がなく、認知症に伴う暴力行為で困っているようなケースでは、一度、薬を整理すべきだと思う。特に抗うつ剤の中止は興奮、暴力などの症状改善に非常に有効なことがある。

 

 
上の記事ではサインバルタを処方後、いつもカリカリしているなど、精神面の悪影響について言及している。つまり、うつが改善し認知症が前景になると、抗うつ剤が精神面を悪化させることがあるのである。
 
精神科薬物治療の最も注意し避けないといけないことの1つは、何らかの向精神薬が精神面を悪化させているのにそれに気付かず、他の向精神薬を併用することである。
 
例えばサインバルタがイライラ感、興奮を惹起しているのにそれに気付かないか軽視し、セロクエルやバルプロ酸、メマリーなどを併用するなどである。例えば以下のような処方があったとする。
 
セロクエル 200㎎
サインバルタ 40㎎
バルプロ酸  400㎎
メマリー    10㎎
 
この女性患者さんは90歳を超えているが身体的には非常に元気である。ただし、認知症は重く介護者を叩く、噛みつくなどが診られていた。普通、リエゾンでも90歳を超えているとセロクエルを200㎎も処方しないと興奮が収まらないことはあまりない。つまりこの処方は年齢的にないわけではないが、不自然な処方内容に見える。
 
この患者さんは現在うつと呼べる症状がほとんど診られないので、サインバルタ40㎎を漸減中止してみた。するとしばらくして日中に傾眠が生じるようになったのである。また噛みつき行為や暴力、暴言が消退していた。
 
つまり、あの精神症状はサインバルタのために興奮が惹起されていたように見える。サインバルタを中止することで、バランス的にセロクエルがこの人には重い処方になったようなのである。この経過だとセロクエルは200㎎も必要ない。そのようなことから、セロクエルを50㎎くらいまで漸減することにより、日中の傾眠も軽減したのであった。
 
今回の記事は双極性障害に対し抗うつ剤が精神症状を乱し、かえって不安定になる話に似ている。しかし、この患者さんが双極性障害だったからそういう経過になったようには見えない。当初、明確なうつ状態がサインバルタで軽快した経過があるからである。
 
おそらく双極性障害に抗うつ剤が良くないと言う話は、本質はそうではなく、「躁状態、興奮状態、不安定な病態には抗うつ剤は好ましくないことが多い」と言えるのかもしれない。
 
また注意したいのは、その人が双極1型とか2型だからという細かい診断分類に由来するものでもなさそうなのである。(しかし双極1型にはたいてい抗うつ剤は良くない)
 
いかなる精神疾患でも、抗うつ剤が精神症状を脚色し、もしかしたらこれは良くないと思えたら、一度整理すべきなんだろうと思う。
 
 

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