患者さんの診察中、「名前が悪いと人生苦しいことが多い」と言う話が出てきた。その人は既に80歳を超えていて、苦悩などほとんど見えないので、普段、そんなことを思っているなんて思いもよらなかった。
その患者さんは退院して15年くらい経っており、再入院もなく、体力的には同年代より良い方である。ただし、それまで社会的入院が長かったたため、かなり人生の損失があったと言える。
そういえば、大学入学後、朝食と夕食が付く下宿に1年だけ住んでいた。その下宿屋の親父さんの次男は非常に優秀で灘中やラサール中に合格できるほどだったが、兄は勉強ができないらしいのである。下宿屋の親父は「名前の付け方が悪かった」ときっぱり言うが、そんなに名前で違うものかと思った。そんなことより、兄ちゃんのいる前でそんなことを言うのは良くない。
稀に精神病を患っている人が改名することがある。改名は日本では容易ではなく、例えば「キラキラネームだから普通の名前にしたい」くらいでは改名は認められにくい。ただし認められにくいだけで裁量もあるので極端にキラキラしているとか、他にも理由があれば改名が認められうるのではないかと思う。
その人がなぜ改名できたかと言えば、思春期から入退院を繰り返していることや、「私はこんな風にずっと苦しんでいるんです」と訴えたところ、担当者に気の毒に思われたのか認められたのである。
確かにその人は治療歴が長かったが、既に改名前に人生が好転しており、名前を変えたからと言って何も変わっていないように僕には見えた。改名の際に字画を気にするためか、普通は使わない字が含まれたりと不自然な漢字の並びになった。ただし名前が変になったから、その後、悪かったようにも見えない。
一般に苗字を変えるのは「やむを得ない事由」、名前を変えるのは「正当な事由」が必要とされている。
高校時代、英語の教師が子供ができた時、祖父の遺言で「馬太」とつけるように言われていたが、無視したという。その理由は「そんな名前を付けたら学校で子供がいじめを受ける」と言うものだったが、これは日本人的には共感される遺言を無視する理由だと思う。
極端なキラキラネームを付けることが良くないのは、子供がいじめを受けかねないとか、本人が悩みかねないなど将来へのリスクを排除できていないことだと思う。
うっかりキラキラネームを付けてしまったと悩みうつ状態になった母親を診察したことがあるが、名前を聞くとそこまで変な名前ではなかった。むしろそこそこあるかもしれない名前だった。
このような事例を見ると、苦悩の持続がうつ状態を招くことがわかる。
名前と精神疾患という過去ログがあるが、これらは基本、オカルトのジャンルの話である。