線維筋痛症とパニック②の続き。
この患者さんは服薬はしているようであるが、来院する曜日が決まっていなかった。初診後5ヶ月目頃から来院が不規則になり、自分が連続して診ていなかった。
どこかで書いたと思うが、いつも同じ医師に見てもらわないと、薬を変更すべき日にそれができない。真剣に治療しようと思うなら、規則正しく同じ曜日に再診すべきと思う。
3ヶ月半
最近、少し落ち込み気味で、食欲もない。しかし今はよく眠れているらしい。パニックはたまにあるが酷くはない。働けないので、時々罪悪感に襲われる。
(薬は変更なし)
4ヶ月
急に首のリンパ節が腫れた。(←重要)
食欲は前よりは出てきた。表情は以前に比べ明るくなっている。不眠や痛みが全くない。頭の中がクリアになっている。今は落ちてもどん底までいかず、途中で止まる。落ち込み方が浅いですね。また1週間くらいで元に戻れる。リウマチの朝のこわばりがなくなった。資格が取れるように最近、勉強している。
5ヶ月
風邪がずっと抜けず、動くのが億劫になった。今は無気力です。(このタイプの疾患は風邪や肺炎は病状を悪化させる)
その後、3ヶ月ほど連続して自分がいない日に再診したため、診ることがなかった。(服薬はそのまま)。彼女は来院が不規則だが、内服薬は続けているようである。
8ヵ月後
痛みはあまりないが、気分が沈んでいる。全てがどうでも良いといった感じ。眠りも悪い。希死念慮があるという。ベゲタミンは使ったことがないらしい。うつ状態にサインバルタを追加する。補助的にワッサーVを併用。薬が多くなったが、疼痛を含め、日々の過ごしやすさを考えると仕方がない。
アンプリット 100mg
サインバルタ 20mg↑
リボトリール 2mg
エビリファイ 6mg
ルジオミール 25mg
ブロバリン 0.4
イソミタール 0.2
ベゲタミンA 1T↑
ロヒプノール 4mg
ユーロジン 2mg
リリカ 75mg
ワッサーV 1.0
8ヶ月半
ベゲタミンはとても眠くて、1日うつらうつらしていた。サインバルタはたぶん副作用はないです。若干沈む感じが減ったという。今は痛みはなく、こわばりもない。
サインバルタを増量しアンプリットを漸減する方針とする。ベゲタミンAはベゲタミンBに変更(減量)。
アンプリット 75mg↓
サインバルタ 40mg↑
ベゲタミンB 1T↓
他変更なし。
9ヶ月目
サインバルタが2つになり、断然動けるようになった。今はできないこともなく、何でも早めにできる感じです。意欲が出てきた。副作用はない。日中は眠いほどではないが、少しボーっとする感じはあります。気持ちがだいぶ楽になっている。今は痛みはない。
9ヵ月半
ようやく先が見えてきた。今は前向きになれています。
10ヶ月
気分が落ち込むという。最近はほとんど動けなくなっている。食欲も減っていると言う。
サインバルタでは彼女のように最初は良いが、効果が減弱する人が少なからずいる。(参考)
食欲が減ったのは、サインバルタによるSSRI様の薬理作用である。サインバルタを諦め、20mgに減量し漸減中止とする。
サインバルタは、このような際にいったん中止してみることは、どの程度うつや疼痛に効いていたかがわかるし今後の治療の参考になる。
トリプタノールを追加し徐々にアンプリットと切り替える方針とする。トリプタノールは服用できるなら彼女のように食が細い人には良い。エビリファイはもはや意味がないようなので中止する。
サインバルタ 20mg↓
トリプタノール 50mg↑
エビリファイ中止。
(他変更なし。)
11ヶ月目
薬(トリプタノール)が増えて、よく眠れるようになった。以前に比べよく食べるという。
解説
慢性疼痛系疾患に限らず、精神疾患は時間が経つと、薬の効果が不足しているように見えたり、あるいは腰折れしているように見える経過が少なからずある。
特に疼痛系疾患は、当初は良い感じで疼痛を抑えていたのに、数ヶ月して疼痛が再燃する傾向がみられる。例えば、過去ログでもリリカは製薬会社の宣伝とは異なり、時間が経つと少し効果が落ちるといった記載もしている。
つまり、一筋縄ではいかない。
元々、精神疾患の予後は数年診ないとわからないと思う。よく精神科の雑誌で、「○○が奏功した1例」などの症例報告があるが、発売日にはその患者さんは悪化して再入院しているとか、笑えない話があるのではないかと思われる。
過去ログでは広汎性発達障害の治療の際に、パキシルで1~2年のロングフライトが生じうると記載している。これはロングフライト中は明らかに奏功しているように見えるのがポイントであろう。(最終的に中止する経過になりやすい)。
今回、彼女はサインバルタで疼痛、抑うつも明らかに奏功していた時期があった。しかし時間が経つと動けなくなったのである。これはSSRI的なセロトニンの悪影響であり、いったん中止を決断している。
つまり個人差があり、エビデンスⅠ、推奨度がAだったとしても不適切なものは不適切なのである。
これは基本的に線維筋痛症の人たちがそれほど忍容性が高くないことを示している。
参考
サインバルタとSSRI
広汎性発達障害はなぜSSRIではうまくいかないのか?
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線維筋痛症の薬物の推奨度と忍容性③
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