精神科の患者さんはあまり入浴しない人が少なからずおり、精神症状の1つと考えている。入浴しない人の精神疾患はさまざまである。
例えば強迫神経症であまり入浴しない人がいる。精神症状に不潔恐怖があり、いったん入浴したら数時間かかるような人である。結局、時間がかかり、疲労困憊すると言う理由で滅多に入浴しない。
入浴そのものは、不潔恐怖を緩和するので精神症状に沿った行動なのだが、逆にできなくなるのである。
これは強迫神経症の人に生じる典型的な本末転倒である。清潔になりたいのに逆に不潔になってしまうのであった。
統合失調症の人では具体的に指導しないとなかなか風呂に入らない人がいる。これは概ね、情意の鈍麻など陰性症状から来る症状だと思われる。
自閉症スペクトラム障害の人であまり入浴しない人は、「入浴しないことをたいした問題でない」と思っていることも関係している(もちろんそれだけではないであろうが)。
体臭がするなど周囲が奇妙に思うかもしれないことにうっかり気付かないか、たいして重要視していないように見える。これらは「心の理論」も関係している。また、自閉症スペクトラム障害では強迫性障害が合併することもあり、上と同じ理由で風呂に入らないこともある。
仕事をしているのにあまり入浴しない人は、社会性の欠如と言って良い所見だと思う。
僕は風呂に入らない人に対し、毎日でなくてよいから入浴し不潔にならないように指導している。特に仕事をしている外来患者はそうである。
入院レベルの重い精神病の人では、風呂場に被害妄想があり皆と一緒に入浴できない人がいる。これは一応指導はするが、それでも妄想が強いと入浴するのは難しい。
入浴したいが体が動かないという人がいる。これは双極性障害、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害で診られるが、単にうつ状態とは異なる。体が動かないと言う症状は、時に亜昏迷に近いこともある。
このタイプの「体が動かない」と言う主訴は、さまざまな疾患で見られるが、自らそう言える人は少なくとも統合失調症ではあまりいない印象である。
入浴そのものは、外肺葉に働きかけるものなので、精神症状には多少は治療的だと思う。