現在、統合失調症の患者さんはある程度の症状があっても、入院せず自宅で生活するケースが多くなった。
表現を変えると、30年前だったらおそらく精神科病院に入院し続けていた精神症状のある患者さんも病院以外で生活していることが多くなったのである。
単身でアパート、グループホーム、共同住居に入居する人は、家族と一緒には住んでいないので、家族の負担はかなり軽減される。
ところが、自宅で家族とひきこもりのように住んでいる場合、家族(特に母親)の精神的ストレスはかなり大きいようである。これも本人の精神症状の内容にもよる。
一般の精神病ではないひきこもりの人は年齢を経て、むしろ家族にとって役立っている経過もみられる。例えば家族の代わりに買い物行ってくれるとか、病院に通院するのに車で送迎してくれるとか、銀行で手続きをしてくれるなどである。
親は高齢になると車の免許を返上することが多くなるが、地方だと車がないと生活が成り立ちにくい状況があり、ひきこもりだった子供が役立つ機会が増える。
統合失調症の場合、人にもよるが、親が高齢になっても日常で様々な点で困らせていることが多くなる(確率的にそうである)。
ここが統合失調症の疾患性だと思われる。これは「統合失調症は単に特殊な考え方をする人に過ぎないのではないですか?」と言う質問のアンサーになっている。
両親(特に母親)は、本人の介護に疲れ果て、時にそのストレスで身体疾患を悪化させ、なんとか本人を病院で診てほしいと依頼する人もいる。両親が介護を受ける年齢になると、統合失調症の子供の面倒をみる余裕などなくなるのである。
このような時、入院させるかどうかは精神病の程度による。現在、精神科病院は入院しなくても良いレベルの人を入院させ続ける医療環境にない。可能ならアパート、グループホームくらいに入居させて、訪問看護やデイケアなどを利用してもらう流れになる。
このように自宅と異なる環境では、ストレスのため60~70歳代の患者さんが病状を悪化させ入院することがある。このような時、意外に治療に時間がかかることがあり、「もうこれは退院することは無理」と思うような状況もしばしばある。
不思議なことにそのレベルになっても、意外に退院できるものである。これは今の抗精神病薬が進歩したこともあるが、試行錯誤の末、よくわからない理由で偶然良くなって退院するパターンが多い。
少なくとも、70歳くらいは今は全然若い年齢なので、可能なら退院してほしいものである。
長期間、親と一緒に住んでいる患者さんが、親が介護できなくなった際に、対応が難しいのは、ずっと一緒に住んでいた生活歴が大きい。これがもし若い年齢でグループホームやアパートに住んでいた経験があれば、多少は対応が易しくなっていたと思う。
稀に、60歳くらいまで無治療の統合失調症の人を親が同居して面倒をみていた事例があり、本当にその後の対応が困る。
ひきこもりの人は慢性進行性でないので、親が高齢になったとき、むしろ役立つことさえあるが、統合失調症の場合、慢性進行性なので年齢が高くなるにつれて親の本人の介護の困難さが増すのである。
今の日本の統合失調症に対する精神医療は、国民が平均して高齢化したため、今まで経験がなかったような状況になりつつある。