今はスマホが普及し、誰でも添付文書を見ることができるようになった。医師は、薬の添付文書にどのように記載されているか良く把握し、必要があれば事前に説明しておく方が良い。
例えば、ある患者さんに適応外でレキサルティを処方したとしよう。レキサルティは添付文書的には「統合失調症」しか適応がないので、本人に説明しておかないと後で患者さんが驚いたり、落胆することもある。
もし医師があらかじめ患者さんに、「レキサルティはエビリファイと同様さまざまな精神疾患に治療的」と説明しておけば無用な心配をかけずに済む。実際、海外ではレキサルティは統合失調症よりむしろ「うつ病・うつ状態」に処方されることの方が多いという。
精神科医がこの辺りの説明を十分にしておくと、患者さんに不信感を抱かれにくく、ひいてはアドヒアランスも良くなると思う。
時に精神科医は薬の説明をしないという不満がネット上で語られるが、これは歴史的なものもある。過去には、相対的に病識の乏しい疾患、例えば統合失調症や躁うつ病が多かったので、薬の説明することがアドヒアランスを低下させることがあった。
少し言い換えると、全く病識がなく服薬を拒むような患者に対し、抗精神病薬の多くの副作用を説明することは、やぶ蛇になりかねなかったのである。
元々、中核群の統合失調症の人はさほど薬に関心がなく、薬について調べることもしない。病識が欠如しているのに細かいことは考えずに服用してくれる。あれは不思議なことである。おそらく疾患と薬が全く嚙み合っていないからと思う(起承転結的に)。
今は副作用について重要なものは説明するが、ごく稀なものは説明しない。これは稀な副作用は無限にある上に、説明していると診察時間が大幅に長くなることもある。薬の説明は精神科治療そのものではないので、それらに時間を多くとられると、他の患者さんの診察時間にも影響する。
神経症でさえ、多くの副作用を説明すれば、服薬が続かないリスクになる。それは薬への不安も強いからである。
そのような理由で精神科医は薬の説明が不十分になりやすい。副作用のうち、ぜひ説明しておきたいものは、ラミクタールの中毒疹やSSRIやトリンテリックスの嘔気等の胃腸障害であろう。抗精神病薬では薬に体が合わない場合、どのような副作用が出るか説明しておいた方が良い。
以下はリリカ(プレガバリン)の添付文書である。これはスマホでも「リリカ、添付文書」で検索すれば容易に検索できる。リリカはめまい、ふらつき、眠気などがありふれた副作用だが、添付文書では稀な副作用もたくさん挙げられている。
あるてんかんの患者さんはこれを見て、恐ろしくなり服用しなかったらしい。(しかも25㎎錠)。特に重大な副作用の中で意識消失が挙げられているのが大きな理由だったようである。
なお、リリカは抗てんかん薬の1つで海外ではてんかんの適応がある国もあるし、日本で適応がないだけである。また日本でもてんかんに禁忌と記載されていない。
上の写真で劇症肝炎やStevens-Johnson症候群まで挙げられている理由は、珍しい副作用でも添付文書に記載すべきだからである。また、国や製薬会社の保身的な意味合いもある。
精神科医からすれば、その患者さんがネットで薬を検索するかどうか診察時にわかることもある。そのような時はそれなりに対応するものだ。
今回の記事は、添付文書の副作用の記載が必ずしも医療現場の感覚に沿っていないことも含まれている。
また、全ての副作用を薬を処方する度に患者さんに説明することは現実的ではないし、時間をかけてそこまでするだけの診療報酬にもなっていないと思う。