タイトルのように部分に薬を止めてほしいと言う希望(依頼)は、精神科外来でもあるしリエゾンの時にもある。以下は精神科外来とリエゾンを分けて記載する。今回の記事は主に統合失調症と躁うつ病を対象としている。
精神科外来でそのような希望がある時、家族から見て一部の薬を止めることで本人の症状が良くなったという評価が多い。例えば就前の薬のうちクエチアピンを飲まないと、翌朝の眠さがあまりないなどである。あるいは、特定の薬を飲まない方がイライラしていないと言うものもある。
患者さんたちが処方通り飲んでいる確率は、時間が経てば経つほど低くなる。これは統計的にもそうである。そのような経験から、その経緯の悪化を避ける目的で持続性抗精神病薬が処方されている(例えばエビリファイLAI、ゼプリオンなど)。
統合失調症や躁うつ病の人たちにとって、服薬遵守できるかどうかは予後に大きく関係する。
一部の薬を止めたいと希望された時、その薬がいかなる薬なのかが重要である。例えば、中止してほしい薬がフルニトラゼパムやデエビゴであればほとんど問題ない。服薬を止めても睡眠に問題がないならなおさらである。
少なくともフルニトラゼパムなどの眠剤は統合失調症や躁うつ病治療の主剤ではないので、なくても大丈夫であれば中止されやすい向精神薬と言える。実際、統合失調症や躁うつ病の人の眠剤の増減は良く行われている。
統合失調症の人でバルプロ酸Naを服薬している人で中止してほしいと希望される場合、主剤ではないので中止しやすい。統合失調症へのバルプロ酸Naは補助的な処方なので中止して様子を診る方法も一考だが、それまで800㎎くらい服薬している人は急に中止せず漸減した方が良い。一般に、抗てんかん薬は中止する際、漸減することが普通である。特殊なケースの中毒疹や悪性症候群の際に、急に中止するのはやむを得ない。
実際には家族がそのような中止の希望をする時は、その薬を既に服用していないことも稀ならずあるので、そのまま中止して経過をみることになることが多い。
最も困るのは、「その薬を止めたら、何も治療していないと同じ」と言った薬を止めてほしいと希望される時。
例えば、統合失調症のオランザピンやインヴェガなどである。これらは止めた直後は、薬の重さから解放されて周囲からも元気になったように見えることも普通にある。しかし統合失調症では、主剤とされる抗精神病薬を止めた時、中期的には悪い経過になることが多い。これは統計的にもそうである。
しかし家族がそこまで言うからには、家族から見て本人の状態が理想的ではないことは理解できる。僕はどうしても抗精神病薬が必要と思える時、この機会に他の抗精神病薬に切り替えを提案することが多い。
例えばオランザピンからシクレスト、オランザピンからラツーダなどへの変更である。
一般的に長年服用している主剤を他の薬に変更した際、うまくいかないことの方が多い。変更してより良くなる期待値はそう高くはない。その理由は、今の非定型抗精神病薬はそれぞれ個性が強いことも無関係ではない。
2剤併用で1剤だけ中止したいという希望がある時、単剤でしばらく様子を診るのも一考で、実際そのようにする医師も多いと思われる。その際、バランス的にもう1剤はいったん少し増量すべきケースも多い。
薬の減量や変更は時に著しく悪化し、入院治療に至る経過も視野に入るため、単科精神科病院の方がまだドラスティックな変更をしやすい。クリニックの場合、安全性を重視されやすく、毎回受診しても何年も全く処方が変わらないと言うことが良く起こる。これは悪化した際、入院施設がないと後が困るからである。クリニックでは、統合失調症の患者さんは悪化を恐れてデフェンシブな処方になりやすい。
結論的には、統合失調症や躁うつ病の人たちの一部の薬の中止の希望が受け入れられるかどうかは、
1,いかなる薬を中止したいのか?
2,その時の病状はどうなのか?
3,単剤なのか2剤併用なのか?
4,通院しているのがクリニックなのか単科精神科病院なのか?
などがパラメータになると思う。僕は家族が、「もしかしたら、この薬をむしろ止めた方が良いのでは?」と思ったら、ぜひ主治医に相談した方が良いと思う。家族の判断で主治医に伝えず、こっそり中止するのは良くない。
例えばオランザピンを処方されていて本人が全然服用していない(家族も知っている)ことが、ずっと後になってわかることがある。処方薬は捨てられるわけで、単に医療費の無駄である。
なぜ処方をそのまま服薬してほしいかと言うと、悪化を避けることもあるが、その人がどのくらいのボリュームで良くなるか把握したいことも関係している。その人の必要量の絶対値のようなものである。
個人差は大きく、真の統合失調症の患者さんでドグマチール50㎎だけでほとんど精神症状が落ち着いている人がいる。これは最初ウソかと思ったが、実際、僕が治療してみるとその通りだった。50㎎だけ飲むだけで、表情や妄想などが段違いに改善するのである。この話の重要ポイントは50㎎のドグマチールは、健康な人でも普通に服薬でき、ほとんど副作用が出ない用量であること。胃薬で150㎎服薬している人がいるのに。
リエゾンの場合、主治医を離れたので総合病院の精神科医に症状と薬を評価してほしいと言う流れが多い。つまり本当にその用量が必要なのか家族が疑念を持っているのかもしれない。
統合失調症や躁うつ病の場合、その処方に至った経過が不明なので、たとえ用量が多いように見えたとしても用量の変更は難しい。そもそも総合病院入院中に処方を変更して悪化したら一大事である。
老年期の精神障害はうつであれ幻覚妄想であれ、この機会に変更するチャンスではある。中止できそうな薬は中止する。例えば、老年期のうつ病で、漫然とリフレックス(ミルタザピン)30㎎が長期投与されていたとしよう。その用量でかなり精神症状が悪い時、中止して他の抗うつ剤を処方した方が良い。例えばサインバルタなどである。今の内科外科系の総合病院では適応範囲が増えたため、サインバルタは普通にある。
また、意味不明の用量の認知症系の薬が入っており、しかも止めた方がむしろ良くなるのでは?と思える薬などは中止する。例えばアリセプト(ドネペジル)などであるが、意味不明とはなぜか10㎎も処方されていたりすることを言っている。
自分が知っている人のリエゾンはまさに人間模様だと思う。かつて自分の病院に通っていたことがあり(僕は主治医ではない)、体調不良で内科の主治医が評価してほしいと希望されたが、転院後、なぜかパキシルCRとセルトラリンが最高量処方されていた。もっと驚いたのは、同時にリスパダールが12㎎も処方されていたこと。
これは体調不良になってもやむを得ない。病院に戻り、その女性患者さんのカルテを調べたところ、以前はベンゾジアゼピンとクエチアピンとミルタザピンくらいしか処方されていなかった。いかなる経緯でこの処方になったのか不明だが、少なくとも、この場面で僕のすることはない。短い入院期間で、また今の精神科の主治医に戻ってしまうのである。この瞬間に減薬しても意味がない。
このような事例は結局は以下の記事に行きつく。
まとめ的には、もし一部の処方を減薬してほしいと思った時、遠慮なく主治医に行った方が良い。もし減らしても問題ないなら減薬されるが、主治医から継続した方が良いと言われた時は、それが正しいことが多い。
これは奇妙な処方をされていると思う時、他の精神科病院やクリニックに相談に行くのも一考といったところだと思う。