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非定型精神病のリーマスの血中濃度について

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非定型精神病は典型的には更年期以降に診られる精神疾患で女性が多いが、患者数はかなり少ない。

 

過去ログにも記載しているが、「私は非定型精神病の患者さんは診たことがありません」と言う経験豊かな精神科医は、たぶん非定型精神病を双極性障害かパーキンソン病か統合失調症と診断している(と思う)。非定型精神病とは診断していないだけである。

 

経験的には非定型精神病はリーマスで改善することが多いので、確率の高い治療薬の視点で双極性障害と診断する人の診断感覚は悪くない。

 

個人的にはコアな非定型精神病の患者さんでリーマスを使わないで良くなった患者さんはおそらく数名しかいない。

 

転帰的に言えば、ECT一発でほぼ治癒した人が数名おり、他は意外な薬がフィットしたと言ったところだ。抗精神病薬が最も良かった人は1名もいないので、やはり非定型精神病は統合失調症っぽくないと思う。

 

リーマスが合わないケースも辛抱強く繰り返し試みることが重要で、何かの拍子に忍容性が変化し、リーマスが良いといった経過になる人もいる。

 

非定型精神病で幻覚妄想があるような人は時にかなり難治性で、僕の患者さんでは1年どころか3年以上入院した人もいる。難治性になる人は忍容性が低いか、ECTやリーマスが明らかに合わない人である。

 

1名など、かなり長期(5年くらい)の入院になり、ECTやリーマスも無効で、認知症の人のように病棟のあちこちに放尿するようなありさまで、一時は退院など無理なのでは?と思うほどであった。

 

しかしこの婦人ですら今はほぼ寛解・退院し、自宅では料理も普通にしている。1人で買い物にも行っているのである。

 

期待値的に非定型精神病は寛解するケースが多いと思うが、経過はさまざまで、あのように追い込まれるケースもあるのである。

 

この婦人は、ここに書けないほど酷い多剤併用処方なので紹介できない。抗精神病薬に限れば、セロクエル100㎎とジプレキサ1.25㎎しか処方していない。しかもこれらも実際に必要かどうかわからないと言うお粗末さである。

 

その婦人は寛解する前にアトモキセチンとビムパットを追加しているので、この2剤のいずれかが良かったような気がするが、それ以外の薬とのコンビネーションだからこそと言うケースもあり得る。臨床感覚として単剤で良くなるような気が全然しない。5年間も入院治療していたのである。

 

酷い処方のまま続けているのは、精神科医から診る限り、高度に寛解しているからである。処方変更など怖すぎてできない。この「怖すぎて処方変更などできない」という感覚は精神科医でないと理解できないと思う。

 

もう1人ほぼ4年間入院していた女性患者さんもいる。その女性患者さんは忍容性が低く、たいていの薬が副作用で使えなかった。良さそうに思える治療はECTのみで、この治療でさえ持続的に良いとは言えなかった。リーマスも処方できなかったと言うより、使える範囲では効果がなかった。

 

彼女の治療ほど、ご主人に申し訳ないと思ったことはあまりない。もしそのご主人が自分だったら、おそらく2年目で見切りをつけ転院させていたに違いない。しかし彼はそんな風ではなかった。彼は医療の専門家ではないので、彼の妻の治療がいかに難しいかわからないであろう。だからこそ、余計にそう思うのである。

 

当時、ECTの実施スケジュールについて考えていた。一度だけしてもさほど改善はしない。2、3回短いインターバルで実施すればそこそこ良くなる。しかし、ぐずぐずとした状態で20日から2、3ヶ月で次第に幻覚妄想が再燃しまうのであった。従って数ヶ月以内にメンテナンス的にECTを実施することが必要に思われた。しかし、そこで必ずしも実施しなかった。何故ならキリがないからである。

 

長期的に、このやり方では退院まで行き着けないと思った。理由を聴かれても、その人をずっと診ていたからそう思うと言うしかない。これは長く同じ人を診ている主治医にしかわからない感覚である。

 

しかし、試行錯誤を続けていたところ、彼女にある変化が起こったのである。ある変化とはリーマスの効果が目視できるようになったことである。彼女は忍容性が低いので高い血中濃度のリーマスは耐えられない。

 

どのように耐えられないかと言うと、口渇、多飲水となり、夜中にずっとトイレに行くと言う事態になる。あるいはまずくすると悪性症候群や横紋筋融解症に至るのである。基本的に水中毒はこれら2つの向精神薬の副作用の近縁に位置している。

 

そこで低レベルでリーマスを維持することにした。普通、リーマスは血中濃度が重要で、双極性障害だと高いレベルに維持する必要がある人が少なからずいるが、非定型精神病はそうでもない。これは非定型精神病の人が、更年期以降に発病しており、少なくとも若くはないことと関係している。何とリーマス200mgで寛解状態が維持できたのである。この用量でもリチウム血中濃度は0.3台はあった。これは一般的な治療用量ではないがこの人には十分である。

 

一時は、退院など無理ではないかと思うほどであったが、今は自宅でご主人と一緒に生活されている。料理もできているらしい。ご主人は到底、家に妻を1人でおいておくなどできないほどだったが、今は仕事に行っても安心できると言う話である。

 

リーマスは治療域と中毒域が接近しているため、用量調整が難しい。その後、過去に治療した非定型精神病の患者さんを調べてみると、最終的に少ないリーマス用量で大丈夫な人が多いことに気付いた。

 

非定型精神病は年齢的なものや忍容性の関係から、低レベルのリーマスで治療することがポイントのようであった。

 

これは非定型精神病全ての人がそうとは言えないかもだが、リーマスが合う人は多分その方が良いと思う。その理由は、非定型精神病は悪性症候群と似た病態だからであろう。これは以下の記事にも記載している。

 

 

 

 

 


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