Quantcast
Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2198

ラミクタールは1日おきで十分と言う人

$
0
0

極めて長期の間隔で精神病状態を呈する女性患者さんがいた。彼女は遠方から転居し、偶然うちの病院に初診した。

最初の精神病の経緯を聴いた範囲では、挿間性の急性精神病状態のような病態と思われた。このような人は普通、統合失調症とは診断されない。(過去ログのこのような人

彼女は、かつて急激に幻覚妄想を呈し近所の精神科病院に初診し処方を受けた。どのような投薬をされたのか不明だが、薬が強すぎて全然動けなくなったものの、すぐに幻聴はとまったと言う。

この話は、リスパダールの発売以前の話であり、たぶん定型の抗精神病薬を使われたものと思われる。1回の受診で様変わりしたように寛解し、その後通院することはなかった。

その12年後、再びよくわからない理由で再発したと言う。初回の病状とは少し異なり、空笑が出現し「家の中に誰かいる」と叫んだり、明るいところはじっとしておれないが、暗い場所では不思議に落ちついたという。再び精神科病院に受診し、1日1錠だけ投薬をされたが、それだけで次第に霧が晴れるように落ち着いたらしい。

初期にかなり重い精神病状態を呈し入院した後、何らかの治療で極めて短い期間で服薬も必要がなく完全に治癒する病態が診られる。これらはICD-10では「急性一過性精神病性障害 (F23) 」などと診断されるもので、かつては心因反応と呼ばれていた疾患群の1つである。

入院直後、薬の副作用で動けないほどになったが、嘘のように症状が消失し、何年も普通に働いていたが、10年~20年後に同じような病態を呈して受診する人が稀だがいる(薬で動けなくなったのは重要所見で、これも予後にプラスに作用している。過去ログ参照)。本人はその間は自分は治っていると思っていたという。(その考え方の方が自然)

これらはもちろん統合失調症ではないし、1回目と2回目の精神病状態は、一連のものとは思われない。その間には欠陥症状もプレコックスもなく服薬もしていないからである。このような挿間性の症候群は、統合失調症よりもむしろ双極性障害に関係が深いように思う。

彼女の話に戻るが、2回目の悪化の後、再び通院しなくなったが、病状が変化し引きこもり状態になったという。何もないと1年くらい引きこもり電話にも出ない。買い物も行かず、食事も作らず、まったく家事ができない状態であった。(参考

その点で、彼女の場合、典型的な急性一過性精神病性障害とは異なる。増悪の間に何らかの精神症状が診られるからである。(彼女の場合、アパシー)

彼女が初診した日、このような病歴から、今後、再診するかどうかさえ怪しいと思った。それでも最初からリスクのある処方は普通はしないので、本人の希望に沿い、眠剤くらいを処方している。眠剤だけだと副作用はほぼないであろうし、困れば再診するはずである。(消極的に対処)

初診時は、病院に受診したくらいなので、引きこもりの状態から変化している状況と思われた。不眠が出て病院に来ていることがそれを示唆している。(それまでは不眠がなかったのに・・)

2回目の受診時、眠剤を服用しているためか、夜は休めるようになったという。アパシー系の病態であるが、2型躁状態ないし幻覚妄想状態ではない時期は、長期に極めて不活発で非生産的な生活をしているので、ラミクタールが良いと思われた。ラミクタール以外に、この病態を劇的に改善する薬はあまりない。彼女の場合、幻覚妄想も生じうるのがポイントである。なお、何らかの有効性が期待できるものは多くある(ジプレキサ、ルーランなど)

当時はまだラミクタールは単剤投与できなかったため、リボトリールとラミクタールを半錠(12.5mg)隔日だけ処方することにした。(今は単剤投与が可能)

リボトリール 0.5mg
ラミクタール 12.5mg(隔日)
マイスリー   5mg


その後、短い期間で彼女は絶好調になったのである。軽度の2型躁転にも見えるが、幻覚妄想に至らず、また人に迷惑をかける行動はない。ある日の彼女の言葉だが、

もう、すごく良いです。気分がとてもよい。先週まではずっと友人と喋っていたりしていたが、今は散歩などして、その後はゆっくりしている。昼間には昼寝をしている。この1年間はなんだったんだろうと思った。外に出ると、木々を愛でたり、爽やかな風を感じます。人生が変わったようです。

これらの言葉は精神科医を少し不安にさせる内容である。薬は増やさずそのままにした。ラミクタールは隔日少量投与のままである。

その2週間後も同様な状態であった。その日の彼女の言葉。

夢みたいに元気になった。11ヶ月間は寝たきりでした。1日、トイレとの往復だけ。今は動ける。朝、散歩にでかけている。家のことも何でもできる。編み物もしています。

その後の再診の際も同じような感じであった。2型躁転気味であるが、それ以上には上がらない。今後何らかの変化が起こるかもしれないが、薬を変えることはしなかった。彼女は悪い時期は、暗い部屋を好みカーテンも開けない生活だったらしい。(ただし、彼女の特徴はその状態でもさほど苦痛を感じないことである。そのため治療開始が遅れる。)

ラミクタールの処方を続けていたが、治療開始5ヶ月目くらいに、ある感染症を契機に、急にうつ状態に振れた(参考)。外出を嫌い「人が家に入ってきて、物を触れる」などという。しかし全く動けないほどは悪化しておらず、少し奇妙なことはいうが、そこまで生活は変化していないらしい。散歩はしないが、家でゆっくり音楽を聴いているという。ラミクタールを毎日服用するように勧めた。

ラミクタール 12.5mg
連日、他は変更なし。


その2週間後、本人によると、そんなに苦しさやきつさはないが、横になっていることが多いと言う。食欲がないらしい。

その後、全く再診しなくなった。普通、うちの病院ではいつも訪問看護に行っている人やデイケアのメンバーさんでない限り、急に来なくなった人に電話するのは稀である。(受診するかどうかは任意)。

再び受診したのは、その半年後であった。

本人によると、「全く動けなくなり受診もできなかった」という言い方である。家族もいるので、その話し方は少し変だと思った。あの病気(感染症)の後に悪くなったという。今後はちゃんと服薬しますと言うため薬を再開。ラミクタールは12.5mg隔日から。

その2週間後。
再びラミクタールが劇的に効いてるという。ラミクタールの効果は再現性があったのである。(最初の改善はバイオリズムによる偶然の改善ではたぶんない)

彼女の話。

薬を始めたら家事もできますし、親族の結婚式にも出席できた。

家族の話によると、2回目の再診直前、少し様子が変だったらしい。ラミクタールを服用し始めて、それらの奇妙な行動がなくなった。

彼女は、「半年間、薬を止めたのはやはり良くなかった」という。薬を飲まないと、カーテンを閉めてじっとしているだけで、入浴もできない。「いつも動けるように服薬していたほうが良いですね」という。(本人はそう言っているが、そこまで理解していない)

転居前に生活していた時代より、ずっと生活にメリハリがある。散歩をするし、入浴も毎日できる。

彼女はラミクタールを毎日半錠ずつ飲んだり、あるいは隔日で1錠(つまり25mg)にすると、気分が上がりすぎて余計なことまでするので、ずっと半錠のままがよいと言う。(量を指定している)

彼女は普通に生活ができるという点で、ラミクタール12.5mg隔日投与で必要かつ十分なのであろう。

それ以外の方法はあまり試していないのだが、昔の治療状態よりずっと良いらしく本人も満足している。

診断については色々意見があると思うが、単に双極性障害でも間違いではない。彼女は病前性格は非定型精神病的であり、非定型精神病でも大きな間違いではないと思う。

彼女のように統合失調症ではない人は、双極性障害圏内のいかなる診断でも良いと思う。厳密な診断名は、大きな問題ではない。

参考
ラミクタールによる躁転の副作用
短期決戦に構える
統合失調症の患者さんの服薬中断


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2198

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>