ある日の外来で高齢の患者さんから、
先生、どこかで見たことある!
と言われた。一瞬、奥さんと目が合い一緒に笑った。
彼は数年前に1年近く入院しており僕が主治医だったのである。(退院後はいつも奥さんだけ来院し、本人を診察するのは1年に2回くらい)
だから、「どこかで見たことある」というのはちょっと・・だけど、忘れられているよりは遥かに嬉しい。
彼は老年期の幻覚妄想状態+認知症と呼べる病態で、医師によればレビー小体型認知症と診断する人もいるかもしれない。
この「どこかで見られたお爺ちゃん」だが、退院後5年は経つのに全然、認知症が進行していない。
身体的にも自力歩行ができるほどで、そこそこ身体的健康は維持している。認知症の部分と幻覚妄想状態の部分を評価すると、後者の方がメインと言える。(ただし幻覚妄想は消失しているが。)
こういう人の診断は、統合失調症ではないのは間違いないが、レビーというのもどうかと思うのよね。
彼は、亜急性に推移する精神病状態の後、その欠陥症状が残っている(しかも固定している)と考えるのがわかりやすい。
彼は高齢で脳の修復力が弱いため、あんな風な状態なんだと思う。つまり、あの認知症に見えるものは、かつての病態の後遺症というか痕跡のようなものだ。
本質的な認知症とは異なるので、全く進行しないのかもしれない。しかしやがて更に歳をとると、本物の認知症が表面化しそうだが・・
なお、そのお爺ちゃんの処方は、リスパダール0.5mgのみである。(もう5年以上同じ。眠剤もなく、降圧剤などもない。)
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先生、どこかで見たことある!
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