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Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
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認知症のBPSDとリリカ

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ある時、リエゾンでいつも車椅子上で体を折り曲げている老人を診察した。その女性は90歳を超えており、かなりの高齢である。

紹介状によると、疼痛を訴え気分のムラがある。また、意欲低下のためリハビリもできない。また食事をろくに摂らない。疼痛については痛がる場所がコロコロ変わるという。

紹介状を読んだ際、「気分のムラ」という言葉は「精神科医はあまり使わないよなぁ」と思った。(参考

車椅子上で、床にある何か取ろうとするような奇妙な姿勢。普通、このような人は老人なら、リフレックスかリリカの少量が良い。最初、リリカ50㎎、レンドルミンを投与してみた。

リリカ 50mg
レンドルミン 0.25mg


2週間後。
ナースによれば痛みの訴えが減少し、体を折り曲げることもあまりなくなっているという。また、精神面も落ち着き気分のムラが減っている。食事も良く摂るようになったらしい。

理学療法士によると「自分の思っていることを話せるようになった。以前は、会話が成り立たず、リハビリも無理だったが、今は少しずつリハビリも進められるので助かっている」と言う。眠剤はあまり意味がないので中止。

その1週間後
かなり良くなったので家族が驚いている。訴えが大幅に減り、ナースコールの嵐が消失したと言う(一同、爆笑)。

現在の病状については家族は納得している。病棟に行ってみると、ビスケットを食べていた。前に比べると表情が明るい。リリカは、温和な抗うつ作用、食欲の増進などの効果を持つ。

初診3ヶ月後。
落ち着いているが、少し独り言をいうようになった。本人に何か問うと、「わからない。わからない。」と繰り返す。リリカを1カプセルに減量してみた。

リリカ 25mg

その2週間後。
リリカを1カプセルにすると、情緒が不安定になるという。2カプセルの方が看護がしやすいと言うナースの意見。2カプセルに戻す。

リリカ 50mg


2週間後。
かなり元気。動き回っている。お菓子を良く食べる。ナースは、今の薬で良いという意見多数。そうして退院となった。

本人は、わからないことはわからないと言う。デイサービスに通う。前よりずいぶん明るくなり、色々なことができるようになっているため、あまりの変わりようにケアマネージャーが驚愕。

リリカで食欲が出て、明るくなり、しかも疼痛も減り、歩き回れるようになった。認知症はあまり変わらないが、少なくとも進行はしていないという。お菓子を良く食べるのは、たぶんリリカによる過食と思われる。

本来、物静かで口数が少ない女性。古風な人。日本的な男性を立てる性格らしい。

初診8ヵ月後
心臓病もあり、たまに息苦しいという訴えがある。リリカの影響もなくはないと思われたので、再び減量。グラマリールを50㎎追加。(リリカは25㎎)

リリカ 25mg
グラマリール 50mg


グラマリールは微妙な薬で、ジスキネジアを改善する面がある一方、抗精神病薬に似た副作用が出ることがある。精神面もかえって悪化するケースもある。基本的に、現時点で彼女へのグラマリールは謎の処方である。

その1ヵ月後
息苦しいという訴えが減った。グラマリールはよく効果がわからないらしい。

更に1ヵ月後
感情の起伏があり、かわいがっているペットに当たる。外見からはかなり穏やかに見えるが。

わからないと言う訴えが多い。デパケンシロップを2ccだけ追加してみる。デパケンシロップ2ccは100mgであり、この女性にとって少なすぎとは言えない。(つまりそこそこの重さ。)

初診11ヵ月後
デパケンシロップを飲み始めて、はっきり少し落ちついたという。物忘れは結構あるらしい。メマリーを考慮するがまだ処方しない。

1年2ヶ月目
メマリー5mgを追加。今後、もし良いなら、リリカをメマリーに切り替える方針とする。

リリカ 25mg
グラマリール 50mg
デパケンシロップ 2cc
メマリー  5mg


2ヵ月後。
一見、前より表情が良いように見える。疼痛はほとんどない。今は体を海老のように曲げる動作は全くない。リリカは隔日投与とする。家族によると、ボケ症状はあまり変化がないらしい。

リリカ 25mg隔日
他変更なし


その2ヵ月後。
リリカを1日おきにすると、飲まない日があまり良くないと言う。気にそぐわないと言葉も荒く、物を投げる。少なくともBPSDにはリリカの方がメマリーより効果的である。今後、リリカとメマリーは併用するが、メマリーは一応20mgまでは漸増してみる方針だった。

突然ながら終わり。長くなりそうなので。

この後のあらすじだが、メマリーは増やすと、かえって良くない。(家族の話。愁訴が増加し、うるさいという。また無駄で困る動きが増える。)

つまりだ。認知症進行を抑えるため推奨量のメマリーは不適切だが、5mg程度使うには問題がない。メマリーを5mgだけ使い続けて、年単位で認知症が抑えられるかは微妙というか疑問である。

少なくとも言えるのは、リリカを25mgだけでも追加すると、認知症のBPSDにかなり有効なこと。リリカは疼痛だけではなく、抗てんかん薬的な効果を及ぼしている。

彼女は最初から最後まで、セロクエルなどの抗精神病薬は一度も使わず治療を進めている。一般に、高齢者の疼痛を伴う認知症やうつ状態にリリカは有効である。少量だけ試みる価値がある薬物といえる。

参考
認知症のBPSDを抑えると言う意味
メマリー
ラミクタールとメマリー
ラミクタールとメマリー Part2
精神科医は無意味な生物と思われているところがかなりあり・・


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