向精神薬の中で、抗てんかん薬は中毒疹が出やすい薬物群である。従来、テグレトールはとりわけ出現しやすく、酷い中毒疹を経験するとテグレトールは処方し辛くなったものだ。
テグレトールは記事の中では時々出てくるが、未だにテーマとして挙げていないのはその理由が少しある。テグレトールは中毒疹が出やすいものの、ラミクタールのように細かい増量マニュアルなどない。
初診時に大量に処方はしないものの、最低剤型でも100mg錠なので、中毒疹が出た際に、そこそこの量を処方していることが多い。
ところがラミクタールはテグレトールに比べ、軽微な中毒疹まで含めると、遥かに高いように見える。(そのような印象)
つまり、テグレトールの処方を逡巡しているようでは、ラミクタールなんて処方できない。
ただし、双極性障害の浮上し難いうつ状態に関しては、ラミクタールの方がテグレトールより遥かに有用性が高いので、この考え方も少し極端である。(双極性障害の場合、テグレトールは他の薬で代替できそうだが、ラミクタールはそうもいかないという意味)。
ラミクタールは、他の薬物で中毒疹が出たような人は、その副作用の出現頻度が高いと言われている。(重要)
だからラミクタールを処方する際に、以前の中毒疹の履歴を聴取することは重要である。
ある時、アレビアチンとフェノバールをイーケプラに切り替えた患者さんがいた。イーケプラは種々の点で、アレビアチンとフェノバールより良かったが、部分発作が再発したのである。
イーケプラにして良かった点は、それまで続いていた慢性的な頭重感と頭痛が消失したこと。日常の気分の重さがなくなり、軽くなったらしい。
一方、右手から始まる意識障害を伴わない部分発作(単純部分発作)がたまに出現するようになった。これは彼女の最も重かった発作ではないが、服薬していて発作が起こるのはお粗末である。服薬しているからには発作が止まらないと意味がない。(どうやっても発作が止まらない人は話は別)
つまり、イーケプラの抗てんかん作用は、最高量でさえ彼女には不十分と言えた。
これでは何のために変更したのかわからない。なんだかんだ言ってアレビアチンは強力な古典的抗てんかん薬だと思う。
新しいタイプの抗てんかん薬への切り替えは、患者さんを古典的抗てんかん薬が持つ神経毒性から解放する意味合いがある。特に毒性が大きいのはアレビアチンだと思う。
部分発作が再発したからと言って、アレビアチンに戻すのは最後の手段である。何のために苦労して切り替えたのか、わからないから。
それにアレビアチンやフェノバールは減量には時間をかけないといけないのである。これまで減量にかけた時間を考えると、そう簡単にはアレビアチンに戻す気が起こらない。
この患者さんは、かつてうつ状態がみられ、抗うつ剤を投与していた。だから、イーケプラからラミクタールに変更するのが適切のように見える。しかし過去に抗うつ剤で1回、抗精神病薬で1回、中毒疹が生じたことがあり決断できなかった。(わざわざリスクを負いたくない。)
そこで、いかにも部分発作に効きそうなテグレトールを追加したのである。テグレトールも神経毒性があるわけで、妥協するのにもテグレトールまでである。
ところが・・
大変な中毒疹!
水泡まではできていなかったが発赤と痒みが酷い。紹介状を書き、しばらく近所の皮膚科で治療してもらった。そこそこ時間がかかったが痕跡もなく治癒している。
結局、マイスタンを追加して部分発作は完全に消失。最初から、ラミクタールを諦めた時点でマイスタンにしておけば良かった。テグレトールはこのタイプの発作にはオーソドックスな選択とは言え、中毒疹のリスクは高いからである。
彼女に、ラミクタールを試みる気は起こらない。今となってはその必要もないが。
結局、薬で皮膚に副作用が出るような人は、ラミクタールは使う前からリスクがあるんだと思う。それはたぶんテグレトールも同じような位置にある。
個人的に、漠然と「薬に当たったことがある」くらいの人は量を絞ってラミクタールを試みている。僕はラミクタール再投与もするくらいなので、その辺りまではする精神科医である。
参考
ラミクタールと重篤な中毒疹
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中毒疹の履歴ある人とラミクタール
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