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Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
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強制退院ないし外来受診拒否の人の処遇について

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入院中、院内で不祥事を起こし強制退院になった人は、内容にもよるが、退院後も外来受診はできない。うちの病院では特に明文化はされていないが、そういうルールである。これはどの病院でも同じようなものだと思う。

強制退院処分になっても、外来受診だけは可能と言う中途半端な処遇になる人がたまにいるが、その理由は不祥事の内容による。実はこれは困ったことであり、処遇に一貫性がないので、なるべくクリアカットに決めている。

なぜ困るかと言うと、再び悪化して入院が必要な際、他病院に紹介しにくいからである。そのくらいなら強制退院にした時点で、他の病院に転院してもらった方が良い。

過去に入院ではなく、外来通院中に診療拒否処分にした人が数名いるが、これはよっぽどのことであり、そうせずに対処できないほどの不祥事のケースである。

僕はよほどの犯罪者でさえ、治療可能性がある場合は、なるだけ受け入れる方針であり、そのような人たちから、「診てくれると言った病院はここだけだった」と言われたことが何度かある。

そういう風にしているのは、変な話だが、自分自身の好奇心から来る部分が大きい。難しい人は治療したくなるのである。これは科学者の本能なんだと思う。(医師も一応、科学者なので)

このような患者で、うまくいった例は過去にアップしたことがない。その理由は2つあり、1つはそのような事件性のある内容であること。もう1つは、どこをもって寛解ないし治癒なのか判定し難いことがある。マイナスの所見がいくら続いてもいつか起これば、それはプラス(つまり寛解していない)を意味する。

治療してみたい言っても、周囲が納得しないケースもある。以前、勤めていた病院では、「自分が院内にいる時だけ受診はできるが、他の医師は絶対診ない」という患者が数名いた。ある時、ある患者が、自分が不在の時に受診し外来で事件を起した。その患者は理事長の命令で以後、診療拒否処分になった。

そのような人たちは、やはり不祥事を起こすので、たまに警察から電話がかかってくる。

初診か2回目の受診の時点で、あらかじめ「警察沙汰になった場合、自分の患者だから、事実を捻じ曲げて、貴方に有利な証言など一切しない。自分が考えている通りに話す」と言ってあるので、そのまま、起訴されて有罪になることもあるが、概ね、精神障害者には警察や検察は弱腰であり、処分保留になることが多かった。

この結果は自分の説明のためではなく、当局がそのような姿勢だったからである。(起訴したからには100%有罪を目指すみたいな・・)

真の犯罪者は、とっさに機転をきかし、自分が罪にならず、処分保留になる言い方を心得ている。そういう人は、たとえ精神障害者であっても、有罪になるべきである。(責任能力あり)。

一般の人はよくわからないと思うが、精神障害者かどうかと、責任能力があるかどうかは別物である。

ある時、希死念慮が持続し、酷いリストカット痕のある若い女性を診ていたことがあった。この女性はセロクエルやベゲタミンAなども併用しないと、眠れず仕事もできない人であったが、治療中は概ね落ち着いていた。

その後、全然予想もしなかった事件が起こった。その女性の父親と姉から、別々に自分に電話がかかってきたのである。

その内容はほぼ同じで、「金儲けのために、あの子に眠剤を出しているだろう」と言う治療自体を糾弾するものであった。もし治療を続けるなら、「○○するという」脅し付きである。

これは病院側からすると、彼女の診療を断れば、それ以上のことは起こらないので、本人に事情を説明して転院してもらうことにした。つまり診療拒否である。

貴方には全く責任はないが、この病院になにか起こった場合、それ以外の患者さんが非常に困る。だから、他の病院に転院してほしい。家族は転院しても他県在住なので、すぐには通院病院は突き止められないだろう。

こういう場合、紹介状もかけない。そうして数年の年月が流れた。

数年後、彼女から僕に電話がかかってきた。再び診察を受けたいと言うのである。その理由だが、診療拒否の電話があった2人は既に別々に自殺しているので、うちには迷惑がかからないという凄い理由だった。

その後、彼女は急回復し、資格をいかしてデザイン系の仕事に就いている。

たぶん、いったん外来受診拒否にした患者さんのうち、後に再び診療するようになった人は、彼女ともう1名くらいである。

今回の話は色々な教訓がある。

希死念慮は本人の心の奥深くに入り込み、その疾患性が思いつかないことが1つ。多分、本人は性格の一部分のように捉えているように見える。これは「最初にお読みください」の一番上のエントリ「なぜ自殺が良くないのか」のコメント欄を見ているとよくわかる。

精神科医療を受けない方針が、いかに悲惨な結果になりうるかも示している。

彼らは、診療を受けていても自殺したかもしれないが、そうでない確率も結構高いと思われるからである。

参考
希死念慮の謎
強制退院の話


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