うつ状態の治療には3つの柱がある。
1、休養
2、精神療法
3、薬物療法
であるが、ECT(電撃療法)などの特殊治療は3の薬物療法に、認知行動療法や森田療法などは2に含める。
メランコリータイプの急性期は、休養は非常に重要とされており、おそらく江戸時代などは、この方法くらいしか治療はなかったと思われる。(他に漢方薬など)
過去ログでは、精神病状態の治療効果は西洋薬が圧倒的に上回り、漢方薬は効果的ではないと言う記載がある。
近年のうつ病でも古典的なメランコリータイプの人は会社などを休ませ、薬物治療を行うことが多い。別に適応障害ではなくても、職場から離れることは治療的である。
過去ログでは、どこだったか忘れたが、うつ病の人々に助言する際の、患者の反応の特徴などを挙げている。
近年のうつ状態は、メランコリーの人が減少し、ディスチミアタイプの人が増加していると言われている。
ディスチミアタイプはメランコリータイプに比べ、抗うつ剤はさほど効果的ではなく、癒えきらないとされている。最近の若者のうつはこのタイプが多い。近年、気分安定化作用を持つ新しい抗てんかん薬などが発売され、全く打つ手がないわけでもなくなった。状況は数年単位では変化している。
ディスチミアの人が休養の意味がないかというと、ないとまでは言えない。しかし古典的メランコリーの人に比べ、寛解に向けての効果の点でそれほどではない。
また、休養を受け入れる「構え」がかなり違う。メランコリーの人は「この大事な時に休んでおれない」と訴え、頑固に休養を拒む。つまり、病状が重すぎ洞察できないのである(病識の欠如)。
ところが、ディスチミアタイプの人は、会社を休んで自宅で過ごすことにさほど抵抗がなく、むしろ歓迎することが多い。初診時に、最初から会社に提出する診断書を要求する人もいる。
ディスチミア型の人は短期的には休養などにより会社に復帰できるようになるが、往々にしてその後が続かない。(再燃し休むようになる。)
つまり、元の職場の上司や部下との人間関係が、再燃のトリガーになっているのである。
典型的な「適応障害」は、会社に説明して職場変更してもらうと、一気に回復し、普通に職場復帰できるようになる。
よく診られるパターンは、会社内の部署の異動である。新しい上司や部下に慣れないし、新しい仕事にも慣れず、次第にうつ状態に至り出勤できなくなる。
一時、年配の人で、それまでは無縁に近かったのに、新しい部署で必須なパソコンの取り扱いが憶えられず、うつ状態を呈する人が多く診られた。近年は、その年代がその境遇に置かれる状況が少なくなっている。彼らは、会社に事情を話して元の職場に戻して貰ったら、あっという間に寛解状態に至った。
現代社会の企業ではパソコンに慣れるより、人に慣れる方が遥かに難しい。人によると、いかに良くなっていても、ある上司の顔を見た瞬間にパニックになるという。
そういう意味で、「適応障害」は精神科慢性疾患の言葉は馴染まない。精神障害者保健福祉手帳では「適応障害」の病名を認めていないのはそういう理由である。(障害年金も同様。精神科医がこれらの診断書に「適応障害」を主病名にすることはないと思うが・・)
重要なことは、その職場でいったん社内の異動や転勤(単身赴任も含む)をしたものを、そう易々と元の職場に戻してもらえるかであろう。個人的に、民間では大企業や公務員などでは、比較的融通が利くようである。
小規模の企業だと、そういう扱い難い人は辞めて貰って、他の人を雇った方が良いと言う考え方になりやすい。今は、労働組合の力が弱くなっており、労働市場は買い手市場だからである。(欠員はいくらでも補充が効く)。
会社の上司の人と交渉して思うのは、この融通は必ずしも大企業が良いとは一概に言えないこと。一般に、大企業が良いのだが、やはり企業のセクタや職種にもよるのである。また業種が市況産業だと景気の影響を受けやすい。
このようなことを考えると、うつ状態の人の休養は、しばしば、ただ休養していても根本的な解決にならないことがわかる。休養は治療手法の1つのパラメータに過ぎない。
若い人のディスチミアタイプは、休養による効果がメランコリータイプに比べ劣るのは、その疾患性から明らかである。
かなり長期に休養していても、環境調整や会社への働きかけなど、何らかの手を打たないとキリがないと言える。
参考
社会的引きこもりとトピナ(後半)
会社の指示で転院させられる話
人をうつに陥れる達人
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うつ状態と休養
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