診察場面では、普通、精神科医と患者の関係は1:1になっている。
たまに1:2に見えることもあるが、治療と言う視点では、実質的に1:1である。つまり、医療は、たぶん他の科もそうだと思うが、極めてプライベートな世界と言える。
しかし精神科では、患者さんは、他の科に比べ「数名:数名」というもう少し広い関係に置かれることが多くなる。例えば、コメディカルスタッフが関係する精神科デイケアや訪問看護などである。また、断酒会なども1:1とはいえない。
外来では、医師から見ると、患者さん2名を同時に診察室に入れたとしても、平行して治療を行うことは稀である。実際にはないわけではないが、結構、治療手法が難しいからである。2名を入れる機会は、例えば家族で治療しているケースである。
精神科医は、姉妹や兄弟を診ることがある。しかし、同じ日の同じ時間に来院したとしたとしても順番に別々に診察室に入ってもらうことがほとんどである。その理由だが、やはり兄弟や姉妹、夫婦でも知られたくないことってあるでしょ。(笑)
重い統合失調症の患者さんの場合、同伴の家族に一緒に診察室に入ってもらい、疾患の理解を深めてもらうことも重要である。一般に、統合失調症に限らないが、疾患について理解されていないより理解されている方が予後が良い。
なぜ今日、こんなことを話題にしたかと言うと、アナウンサー&タレントの安住紳一郎アナの面白い話を思い出したから。
安住アナは、北海道の帯広出身だが、大学を卒業後、国語の教師になることが決まっていた。ところが、試しにアナウンサー試験をいくつか受けたところ、TBSの最終選考で合格したらしい。非常に熱望してアナウンサーになったわけでもなさそうなのである。
素晴らしいと思うのは、国語の教師を蹴ってアナウンサーになったとかそういうことではなく、阿佐田哲也風に言うと、田舎から出てきて、あのような仕事が自由自在にできていることである。(彼の本では、伊集院静について言及)
安住アナが国語教師とアナウンサーの仕事の共通点と相違について触れていた。
国語教師は、1:多数の仕事だが、その多数も比較的少ない。教室では30名くらいである。アナウンサーも1:多数だが、その数は膨大と言って良い。この2つの職業には、そのような共通点と相違がある。彼は、どうせなら、「1:非常に多数」に興味を抱き、やってみたいと思ったそうである。
精神科医は、日常の診察や精神鑑定などでも、1:1の関係に置かれることが非常に多い。その点が、一般の人たちに誤解されやすい要素があるんだと思われる。診察場面は、決して開かれてはいないからである。
ところが、治療場面から離れると、1:多数の場面がないわけではない。例えば、学会や講演会などでは、演者から見ると1:多数である。またこのブログは1:非常に多数となっている。
しかし、それらは個々の治療とは異なる。それでもなんとなくだが、安住アナが、1:多数を選んだ気持ちがわかるのである。
安住アナと相違があるとすれば、アナウンサーはそのまま仕事なのに対し、精神科医はそうではないこと。仕事と関係が深いものの治療とは異なっていることであろう。
参考
患者さんを家族と一緒に診察する
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1:1の関係
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