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パーキンソン症候群の幻覚妄想の治療について

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リエゾンでは、パーキンソン症候群、あるいは容易に錐体外路症状が出やすい人の幻覚妄想の治療を依頼される。

前者の場合、抗パーキンソン薬が妄想に絡んでいることもあるので、漸減中止することも有力だが、本来の神経疾患が悪化するので神経内科医に対し心証が良くない。薬物調整の依頼をすることもあるが、僕はまずしない。

普通、たとえセロクエルであったとしても、抗精神病薬はこのタイプの人には相当に使い辛いものだ。また、思ったほど効かず、パーキンソン症候群を更に悪化させただけ、という結果になるのも困る。

本来、抗精神病薬はパーキンソン症候群に禁忌とはされていない。しかし、抗精神病薬の副作用としてパーキンソン症候群が挙がっている以上、処方しにくいのである。

エビリファイは、一般に副作用としてアカシジアはよくみられるが、振戦はかなり少ない。しかし、パーキンソン症候群の人に限れば、振戦を悪化させる。このようなことから、一見、処方しやすそうに思われるエビリファイも十分に不適切である。

このタイプの器質性幻覚妄想は抗てんかん薬が非常に有効なことがある。うまく効いた場合、介護者、看護者、神経内科医が唖然とするほどの切れ味である。

抗てんかん薬は、高齢者でよく合併している糖尿病の人にも処方できるのはメリットである。

デパケンシロップが効くので、デパケンRやセレニカRでもよいかと言えば、なぜかデパケンシロップの方が優れている。その理由だが、向精神薬は液剤の方がより鎮静的なこともあると思われる。

また、認知症由来の物盗られ妄想にもデパケンシロップが有効なことがある。

これらの疾患群で、抗精神病作用の乏しいデパケンシロップが奏功する理由は、基本的にこれらの妄想が器質性疾患由来であることもあると思う。また、デパケンシロップは、高齢者にとって十分に強力なのであろう。

用量については個人差があるので、その人の体格、他の薬の忍容性、合併する内科および外科疾患の重さなどを勘案する。初期投与量は2㏄~8㏄程度であるが、この人は元気が良くてたぶん忍容性が高いと思われる人で6㏄くらいである。6㏄とは300㎎に相当するので、高齢者に対する処方量としてはまあまあの量といえる。

このように記載しているが、なぜデパケンシロップが、リエゾンの場面で、ああも高齢者に気持ち良く効くのか、理論的に答えることはできない。

パーキンソン症候群でも認知症も合併しレビー小体型認知症に近い人は、忍容性が著しく低いことも稀ではない。このような人の幻覚妄想には、デパケンシロップ以外では、アリセプトのごく少量やメマリーの少量も治療的なことがある。この2つでは処方しやすさでは、メマリーが上回る。他の定石的なものとして、抑肝散も挙げられる。

老人に対し最初から2剤処方すると、効いたとしてもどちらが効いたかはっきりしないこともあるうえ、自分の処方スキルも上がらないので1剤で始める方針が良い。

何が凄いかというと、最初の1剤としてデパケンシロップを選択し、劇的に効くのが凄いのである。

デパケンは外回りを改善するため、ターゲットの幻覚妄想に加え、他の精神所見も改善する。例えば、看護者に対する暴言や、執拗にナースコールを押すこと、愛想の悪さ、表情の険しさなどである。本質的な人柄を入れ替えるように改善することもある。

その他の抗てんかん薬として、過去ログにも挙がっているが、ラミクタールの少量も良いことがある。これは精神面が非常に不安定な時は推奨できない。その理由は、ラミクタールは鎮静的な薬物ではなく、急速に増量も難しいからである。また重篤な中毒疹が出現しかねないのもよろしくない。

したがってリエゾンでは、よほど対処に困った状況で、かつ、ラミクタールに可能性が見いだせる場面、また家族の理解が得られるケースでしか使わない。

一般に、リエゾンでは明確なうつ病、うつ状態以外の病態の治療依頼が相対的に多く、賦活的な薬物は出番は少ない。抗うつ剤でもリエゾンではリフレックスが重宝されるのは、鎮静的抗うつ剤だからである。

他の抗てんかん薬としては、少量のリリカも良いことがあるが、幻覚では使う場面が極めて稀である。たぶん効果もあまり期待できない。その理由は、リリカに行きつく前に、治療が片付いてしまうことが大半なこともある。

リリカが良い人は、実際に疼痛に苦しんでいる食事も摂れないような老人である。リリカは食欲を改善するのでその点でも治療的である。

リリカは温和な抗うつ作用を持つが、鎮静的な薬物でもある。基本的な向精神薬の考え方として、食欲を出すような薬物は鎮静的なことが多い。この極端な逆の例が覚醒剤である。

ここ5年くらいで、次々と新規抗てんかん薬や新しい認知症治療薬が発売になり、器質性幻覚妄想の治療選択肢が広がったと感じる。

参考
脳梗塞後の抗てんかん薬
抗コリン作用を持つ薬物の認知への影響
レビーを疑う前に薬剤性を疑う


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