これは研修医の頃、指導を受けた。
当時、まだ駆け出しだったし、どの範囲で自分の話をしないようにするのか、よくわからなかった。診察中の話の文脈で、「自分はこんな風にしている」などと言わないようにした方が良いのだろうと漠然と思っていた。
後年、幻聴の経験のある精神科医?のドクターが、統合失調症の患者さんの診察中、幻覚の話で大いに盛り上がり、
(幻聴が)自分もあるある。
と診察が大変なことになっていると、外来看護師から連絡を受けた。「確かにこれは困るよなぁ・・」と思ったものだ。原則、自分の話はしないルールを守れば、このような事態も避けられたであろう。外来患者さんも「この先生なんなのよ?」と不信感を持ったと思う。
この時、僕は現場にいなかったし、どの程度の大盛り上がり?だったのかわからない。このドクターは本来精神科医ではなく、他科のドクターだったが、当時の院長が不憫に思い、雇っていたという。ところが、ある日、他の精神科医より給与が低いことに気づき、激怒して辞めていったらしい。本質的に病識が欠如していたからである。その後の消息は知らない。
「自分のことを話さない」と言うのは、おそらく、単純に「プライベートなことを話さない」ということではなさそうである。たとえば、患者さんから年齢を聞かれることがあるが、
そういうプライベートなことは話せません。
とはっきり答えることが多い。自分の年齢を知らせることはあまり治療に関係がない。
ずっと若い頃は、女性患者さんがあまりに容易に陽性転移してしまうので(簡単に言うと、主治医に惚れる)、自分は既に結婚していることにしていた。(25~26歳頃)。
今だと皆、結婚が遅くなっているので少し変だが、当時は医師も結構早く結婚していた。僕の親しい友人はほとんどが30歳に達する前に結婚したので、自分ともう1人脳神経外科医の友人が最後まで粘っていると言えた。
ところが、仕事上、「結婚している」と嘘をついていると、その文脈で女性患者さんから「子供がいるのか?」を尋ねられたりする。嘘をついているとそのために辻褄を合わせなくくてはならず、何となく罪悪感を感じたので、そのうちそのようなことを言わなくなった。
指導医によると、そういう嘘も好ましくないという話。
陽性転移の話だが、アメブロメールでも相談を時々受ける。当時、神経症圏内の女性患者さんのうち適切と思われる人を心理療法士に任せていたが、最初に必ず1回自分の診察を受けて、心理療法士のカウンセリングを受ける順序になっていた。
ある日、心理療法士がとても怒っていたので、なぜなのか問うた。彼女によると、
彼女の化粧が診察日に厚すぎる。
というのである。また服装もブリブリのボディコンなので、あれは許せないという。
その彼女の怒りが可笑しくてたまらなかった。今から考えると、あの心理療法士の立腹はある種の「逆転移」と言えた。当時、自分も彼女もまだ若かったので仕方がない。
ちょっと思ったのだが、うつ病ないし躁うつ病などを患った経験のある精神科医は、自分の病状が悪かった時のことを患者さんに語るのか?と言うこと。たとえば、このように工夫して生活を調整したとかである。
一般に精神科医は患者さんに弱点を見せないようにするものだ。ということは、もしうつ病になった経験があったとしても、それを患者さんには相当に話しにくいとは言える。なぜなら、
この先生はいったい大丈夫なんだろうか?
と漠然とした不安感を抱かせかねないから。患者さんはそこまで思っていないと思うが、内因性うつ病や躁うつ病は、精神病の1つと言うのももちろんある。
自分に関しては、あまり関係のない範囲で、自分の経験やエピソードは話している。たとえば、患者さんが海外旅行に行ったと聞けば、もし行ったことがある場所なら、その話などをすることがある。
あまり系統的に診察はしていないため、そのようなことでもないと間が持たないと言うのもある。しかし、そのようなバカ話で時間がかかると、待たなくてもよい患者さんが余分に待たないといけないので、そこそこである。
プライベートの話はあまり関係ない範囲で少しだけ触れて、枠をはずれているようなものは話さない、といったところだと思う。
参考
患者さんに離婚を勧めてはならない
萌えようがないこと
真に困ったとき、複雑な笑みになる話
病識
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診察時、できるだけ自分の話はしないようにする
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