先日の調剤薬局の記事について、薬剤師の方からいくつかコメントがあり、もう少し詳細がわかる記事をアップすることにした。
このブログはたまに医療経済的な話もしているが、個人的感情などのどうでも良い枝葉末節なことは問題にしていない。いつも日本全体の経済状況などを考えて記載している。
まず、株式公開をしている調剤薬局チェーンの2014年期の売り上げ、経常利益の順位は以下の通りである。
売上げ
1位 アインファーマシーズ 1702億円
2位 日本調剤 1653億円
3位 総合メディカル 1033億円
4位 クオール 1009億円
5位 メディカルシステムネットワーク 661億円
6位 アイセイ薬局 487億円
7位 ファーマライズHD 333億円
8位 メディカル一光 228億円
(以上、1億未満切り捨て)
上記の調剤薬局チェーンは株式公開しているため、経常利益、配当、営業キャッシュフローなどの詳細がわかるが、大手でも株式公開していない調剤薬局チェーンもある。例えば、クラフト、売上げ1004億円などである。
全国で調剤薬局は5万店舗以上あり、上位10社を合わせても店舗数のシェアは6~7%と言われている。つまり零細な調剤薬局はかなりの数あることがわかる。
コメントの中に、薬価には消費税がかかるため、そこまで利益にならないと言う指摘があったが、その通りで、例えば88%でもそれに8%の消費税がかかるため、実質95%ほどになっている。それでも大手の薬価差益はかなりの額になることが想像できる。
いずれにせよ、上位の調剤薬局チェーンが莫大な利益を上げているのには変わりがない。(高まる調剤批判に対し厚労省内から「擁護しきれない」と匙を投げる声が聞こえる。その矛先はとくに調剤チェーンへと向かう。背景としてまず上がるのが、流通改善に向けた取り組みの停滞だ。日本保険薬局協会が協力的な姿勢を見せていたものの、加盟する大手チェーン2社が薬価調査までの価格妥結に至らなかったことが影響し、妥結率低迷は必至。一部の厚労省官僚は、「薬価差確保で粘る姿勢を崩さなかった」と解釈し、財務省や日本医師会などから調剤基本料の引き下げを求められても「反論しようがない」と諦め顔だ。)
経常利益
1位 アインファーマシーズ 105億円(前年対比 2.9%増)
2位 総合メディカル 50億円(前年対比16.7%増)
3位 日本調剤 41億円(前年対比46.7%増)
4位 クオール 22億円(前年対比21.9%減)
5位 メディカルシステムネットワーク 20億円(前年対比 5.6%増)
6位 ファーマライズHD 12億円(前年対比16.5%減)
7位 メディカル一光 12億円(前年対比15.9%増)
8位 アイセイ薬局 7億円(前年対比41.4%減)
(以上、1億未満切り捨て)
経常利益は簡単に言うと、その会社が経常的な営業の結果、手元に残る利益。 この経常利益から特別損失や特別収益を加減算したものが「税引前当期純利益」。
税引前当期純利益から、税金を差し引いて最終的な当期純利益が算出される。当期純利益から配当金は支払われるのである。
上記の調剤薬局チェーン店の経常利益は、ほとんどが税金に由来するが、この経常利益から法人税を支払わなければならない。したがってこのクラスの経常利益の会社は40%近い部分を国に税金として還付している。
連結事業
アインファーマシーズ 医薬89、物販11、他0
総合メディカル 医業支援28、薬局70、他2
日本調剤 調剤薬局88、医薬品製造販売9、医療従事者派遣・紹介2
クオール 保険薬局90、他10
メディカルシステムネットワーク 医薬品等ネットワーク2、調剤薬局95、賃貸・設備関連1、給食1、他1
ファーマライズHD 調剤薬局94、他6
メディカル一光 調剤薬局88、ヘルスケア7、医薬品卸5、不動産0
アイセイ薬局 調剤薬局97、他3
これらの調剤薬局チェーンの事業内容。「総合メディカル」のみ調剤薬局専業とまでは言い難い。他の調剤薬局チェーンの「調剤」の占める割合は非常に高いことがわかる。
一株利益および配当
アインファーマシーズ 一株利益330.1円 配当60円
総合メディカル 一株利益395.6円 配当80円
日本調剤 一株利益 262.5円 配当70円
クオール 一株利益25.1円 配当18円
メディカルシステムネットワーク 一株利益27.7円 配当 8円
ファーマライズHD 一株利益46.6円 配当14円
メディカル一光 一株利益357.9円 配当57.5円記
アイセイ薬局 一株利益63.1円 配当40円
上位の調剤薬局チェーンは全て黒字で配当も出している。一株利益は発行株式数の関係もあり、一概に大きい一株利益であるほど大きな利益が出ているとはいえない。大きな一株配当を出す会社は、利回りを重視する投資家により買われ株価に反映する。
調剤薬局という業態は、ソニーやパナソニック、あるいは製薬会社の研究開発費のように、ひょっとしたら最終的に全てが無駄になるかもしれない投資はあまりないと思われる。そのようなこともあり、上場している調剤薬局チェーンは全社、安定した利益を出し配当しているんだと思う。
ビル・ゲイツがマイクロソフトを長く無配にしていたことは有名である。企業は純利益の全てを配当していたら研究開発などの投資はできない。
ビル・ゲイツは配当をせず、その資産を研究開発に投資し発展させたのである。IT企業では、比較的大きな利益があるのにもかかわらず、配当しない上場会社は珍しくない。
営業キャッシュフロー
アインファーマシーズ 146億円
総合メディカル 74億円
日本調剤 62億円
クオール 23億円
メディカルシステムネットワーク 37億円
ファーマライズHD 13億円
メディカル一光 12億円
アイセイ薬局 29億円
(以上、1億未満切り捨て)
調剤薬局チェーンでは、固定資産の減価償却など無形の経費が結構あると思われる。特に新店舗を次々と出しているような状況では、毎年、大きな減価償却が計上できるであろう。つまり、見かけ上(経理上)、経費が大きく利益があまり出ていない決算もありうる。営業キャッシュフローとは、年間の企業活動の後、手元に残るお金である。
2014年3月期の日本調剤・三津原社長は6億7700万円と過去最高額を得ている。これはすべての昨年の役員報酬の中では10位。多分だが、自分がこの金額を貰わないと、法人税としてざっくり取られてしまうため、経常利益を少しでも減らそうとして報酬を受けているように見える。結局、所得税としてやはり高額を取られるが、税引き前に受け取るのがポイント。
なぜ日本調剤の三津原社長の役員報酬が明らかになったかと言うと、2010年の内閣府令改正で日本企業は報酬総額1億円以上の役員名の有報記載が義務化されたためである。それまでベールに包まれていたものが明らかになったと言える。2014年の日本調剤社長は前年比で8700万増だが、社員の平均給与は対前年比0.38%減っているらしい(笑)。
日本調剤以外でも、巨大な報酬が報道されている。
アイセイ薬局は23日、14年3月期の有価証券報告書を公表。岡村幸彦社長の報酬は3億8400万円となり、前期から約1億2600万円アップした。社員の平均年間給与は約4万円増の532万円で、平均年齢は35.1歳で▲0.2歳だった。
だいたい、これらの調剤薬局チェーンが莫大な利益を出し、株主に配当すること自体がおかしな話である。その理由は、純利益は一般の製造業とは異なり、ほとんどが国が定めた診療報酬に由来するからである。利益が出るくらいなら、従業員の給与を上げるか、それでもなお大きな利益が出るのであれば国に還付すべきであろう注1。(なんと株主優待をしている会社もある。謎過ぎる株主サービスだと思う)
なお、精神科病院に限らず、一般の病院は医療法人であり配当は禁じられている。(たぶん公共性があるからだと思う)
このようなこともあり、今春の診療報酬改定では、遂に調剤報酬の仕組みに大きなメスが入ったのである。
(参考)
医師は粥すすり、薬剤師はすき焼き三昧 日医・鈴木常任理事 “敵陣”日薬学術大会で分業批判の大立ち回り
日本医師会の鈴木邦彦常任理事は22日、大阪市で開催された日本薬剤師会学術大会で「医薬分業のあり方」をテーマに講演。“敵陣”に乗り込んで、分業、調剤報酬、薬剤師会をばっさばっさと切り捨てた。鈴木氏は、突出した伸びを示す調剤報酬について、総医療費、1日当たり医療費、受診日数、1施設当たり医療費などを挙げて糾弾。診療所よりも薬局のほうが「今や売上げが多く」、「我われ(診療科)のなかで一番大きい整形外科をも逆転している」と説明、「母屋(医師)でお粥をすすっているのに、離れ(薬剤師)ではすき焼きを食べている」と厭味を効かせた。
調剤報酬体系に関しては、「細かい加算がたくさん付いている」調剤基本料は「(加算を)たくさん出すほど収入増」につながると疑問視。医科とは「逆のインセンティブ」と述べ、「我われのマイナスが調剤のプラスになっている」と訴えた。さらに「包装されているのを袋詰めするだけ」と薬剤師業務をこき下ろした。後発品促進のためのさらなる加算点数増に関しても「薬剤師にはいらない。インセンティブは十二分に付いている」と牽制。病院薬剤師における病棟業務にも「評価推進なら財源は調剤から出すべき」とクギを刺した。注2
また、院内処方(処方料)と院外処方(処方せん料)の格差設定という分業推進の根幹も問題視。「それだけの患者負担をお願いするメリットはあるのか」と語り、「大義名分」だったはずの「面分業」が進まないなかで、「かかりつけ薬局の効果はほとんど見られない」と断じた。
さらに、舌峰は薬剤師会にも及んだ。日医の組織率6割弱と比較して日薬の組織率は、薬剤師27万人に対して会員10万人と3割台。「病院薬剤師も組織されていない」「大手調剤チェーンへの影響力を行使できるのか」が、わからない日薬は「薬剤師を代表するのか疑問」と相手の懐まで攻め込んだ。
鈴木氏は今後、分業メリットの検証、院内と院外の点数格差是正のほか、医科・歯科・調剤の「配分比率の見直し」の必要性を強調して講演を結んだ。一方、座長を務めた日薬の三浦洋嗣副会長は「耳の痛い話もあったが持ち帰り、明日からの業務につなげたい」とまとめた。しかし、日薬会員からは「鈴木氏の指摘には間違いもあった。なぜ正さないのか。言われっ放しじゃないか」と改定交渉の責任者である中医協委員に非難は集中した。
注1
医科の方は度重なる診療報酬改定で、既に「生かさず殺さず」の状況が実現している。
注2
この意味だが、医科と調剤の財源配分比率「1:0.3」のことを言っているんだと思う。
参考
日本の医療費と調剤薬局について
↧
大手調剤薬局チェーンと調剤報酬改定のことなど
↧