Quantcast
Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2198

特定不能の環境の有害物質による幻覚

$
0
0
ある日、幻覚に加え、むずむず足症候群などの副作用が出ている女性患者さんが転院してきた。

第一印象は、症状と薬物治療がかみ合っていないといったところである。

その女性の診断は統合失調症とされていた。実際はそうではないと思ったが、これくらい重篤なら社会的には統合失調症でも十分である(種々の社会福祉を受けるにあたり)。

彼女の場合、抗精神病薬の副作用がみられるものの、大きな苦痛という点で、それを上回る活発な幻覚妄想がみられた。

そのうち幻覚は、幻視や「人から触られるような感覚」および「自分を非難する幻聴」も伴っていたので、本人にとっては大変な状態である(泣きながら足踏みして座れない状態)。

彼女の処方を診ると、なんとかジプレキサで治療しようとしているようであったが、忍容性が低く、ジプレキサが十分に奏功するレベルまで増量できないと思われた。

このような患者を診た場合、ステレオタイプに対処するわけでがないが、結果的に似た方法をとることが多い。

彼女の場合、ジプレキサは第一感では良さそうに見えるのでいくらか減らして継続し、副作用を緩和する方針とした。もしジプレキサより良さそうに見える薬があればもちろん切り替えていたと思う。

彼女の場合、あれほどの副作用が出ている上に幻覚妄想が活発なこともあり、良さそうな薬はあまり思い浮かばない。もし使うとすればクロザリルくらいであろう。

また、彼女の幻覚は活発であるものの、彼女の行動を完全に支配するほどのパワーはないため、入院治療は必要なく外来だけで十分に対処できると思われた。彼女がもし統合失調症であれば、この程度であれば入院させた方が無難である。(重要)

彼女の外来には、未だかつて家族が同伴してきたことなど1度もない。(彼女の幻覚は内面的な範囲にとどまっていることを示唆している。つまり彼女には突飛な、あるいは家族を困らせるような行動面の異常はない)

最初、ジプレキサを2.5㎎ほど減量しリボトリールを加え、またバルプロ酸Naシロップ4mlを1日1回夕方服用するように伝えた。つまり大きな変更はしなかった。彼女には最初は1週間ごとに通院するように指導した。

次回受診したとき、むずむず足などの副作用や、幻覚がかなり減少していたのである。これは他覚的にもそう見えたし、本人が「かなり楽になりました」と言っていたので間違いない。この改善に外来婦長も驚き、「今日は笑顔があった」と話していたので、誰にもわかるほどの変化がみられたといったところである。

彼女によると、幻聴はかなり減少しているもののまだ残遺しており、一方、光が見えたり人が触るような幻覚は全くなくなったという。

彼女自身には幻覚が苦痛なようで「幻覚はない」というが、幻聴は持続しているのである。つまり彼女の言う「幻覚」は幻視や異常感覚だけで幻聴は含まれていない。(区別して本人が言うが指摘しなかった)

うまく字が書けないほどの著しい振戦がみられるので、仕方なくインデラルを併用した。インデラルは身体疾患のために使えない人もいるが、彼女は大丈夫だった。これは振戦を軽減しているので悪くないと言えた。

問題は重いむずむず足症候群である。これは明らかに薬剤性(ジプレキサ)のものだが、中止できる状況になかった。

そこでガバペンを併用してみた。ガバペンは眠さと肥満などの副作用があるが、中毒疹はかなり少ない印象で忍容性の低い人には勧めやすい。結果だが、ややむずむず足は軽くなったものの、思ったほど劇的には効かなかった。

ところが、ガバペンは本人の持続的な不安感をかなり和らげたのである。ガバペンは継続する価値があると言えた。

ここで、完全には改善していないむずむず足を改善するために、レグナイトを試みることにした。レグナイトはガバペン系の薬だが、むずむず足症候群に特化した薬である。ガバペンがある程度有効である以上、レグナイトでより改善してもおかしくない。

しかし、レグナイトは自律神経系の副作用が出て(ふらついて倒れる)、2錠は使えないのである。レグナイトは300㎎の剤型しかなく、1日1回夕食後に2錠服薬するように添付文書に記載されている。彼女は1錠だけだとなんとか飲める上に効果もあるというため、300㎎だけ継続することにした。このように、ガバペンとレグナイトは薬剤的な重さが微妙に異なる。

このようにして数か月後、以下の複雑な処方に落ち着いた。

ジプレキサザイディス 5㎎ 
アキネトン 1㎎
ガバペン 400㎎
インデラル 30㎎
リボトリール 2㎎
レグナイト  300㎎
バルプロ酸Naシロップ  8ml


彼女には不眠がないので、眠剤は必要ない。というより、ガバペンやレグナイトなどが眠剤の役割を果たしているように見える。

彼女は自覚症状が極めて改善したことで非常に喜び、よくフルーツを持ってきてくれるが、どうも自宅で作っているわけではないようなので、気を遣わなくて良いと言っている。

全般、彼女の幻覚は緩和しているが、唯一、幻聴だけは消失していない。規模というか量的なものが改善しているだけである。それでもなお、彼女はかなり楽に生活できるようになった。

個人的に彼女は統合失調症ではなく、幻覚の由来は、環境のある特定の有害物質であろうと考えている。

タイトルには「特定不能の」と記載しているが、彼女の出生以後の生活歴を考慮すると、そう思うのである。ただし証拠がない上、その環境の有害物質を排出させるキレート剤はないため、根本的な対処は難しい。また大きな問題でもないと言える。

対症療法的に治療するしかないため、現況、彼女の今以上の改善は難しいのではないかと思っている。

(おわり)

  

    

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2198

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>