今日はちょっと変わった話題を。
精神科医と鍵は関係が深く、同じ医師でも他の科にないものだと思う。精神科病院には、フロアの入り口が施錠されている病棟がある。いわゆる閉鎖病棟である。ずっと以前、僕が医師になった当時、アルバイト先の精神科病院は継ぎ接ぎに改築されていたためか、鍵が1つでは済まなかった。大小合わせて5本くらいあった。病棟により鍵が異なるのである。
大学医局の研修医時代、正確な記憶ではないが、大学病院が3本、アルバイト先の鍵が5本くらいと8本くらい常時持っていた。それに自宅の鍵や車のキーである。全くこれほど鍵を持っている(あるいは持たされている)医師は、精神科医くらいのものだと思う。
一時、刑務所に勤めていた頃、その鍵は半端なく重く、しかも簡単には千切れないほど太い紐が付いていた。この紐をズボンのベルト辺りに付ける仕様である。渡される前に、万一、紛失した時は大始末書ものだと言われた。
さて、時代が流れ、精神科病院は改築の際にできるだけ共通の鍵で済むようにしたため、少し鍵の数が減った。しかし、医局や院長室が同じだと職員が誰でも入れることになるので、やはり数本は必要である。
今、自分のキーの束を調べると、病棟のキーが2本、院長室用が1本、自宅のキーが1本、自動車のキーも一緒にまとめているので計5本ある。このうち、自動車のキーは形状がかなり異なるが、他の4本のうち3本のキーは一見どこの鍵なのか区別がつかない。実際、異なるキーでもキー穴には入るが、回らないだけである。このようなことがあったため、鍵屋さんに行き色付けしてもらった。つまり色つきのスペアキーに替えたのである。
院長室でも病棟でもどこでも入れるオールマイティーキーもあるが、これだと複雑に刻まれているせいか折れやすいのである。しばらく使っていたら、キーの穴に入ったまま折れて、鍵屋さんが来るまで開かなくなった。実際には電子錠だたったため扉の電源をオフにし、修理が終わるまで入口に職員が1名待機していたのである。オールマイティーキーは寿命が短いため、今は院長室とそれ以外を分けて使うことにした。
キーは本来、匿名性を供えており、例えば紛失したとして、まさかそれが精神科病院の鍵とは思わないであろう。
最も新しいタイプの精神科病院はカードキーのところもあると思われる。つまりホテルのような感じである。カードキーだと財布に入れられるので非常に良いが、僕は財布は普段持たないので、やはりどこに入れておくか悩む。カードキーだと重くないのが良いと思う。今はともかく、昔の精神科病院のキーは重すぎた。
カードキーはとりわけ匿名性が高く、ホテルではカードに部屋ナンバーが書かれていることはまずない。したがって自分の宿泊する部屋のナンバーは憶えて外出しなくてはならない。初めてナンバーが記載されていないカードキーはハワイで経験した。アメリカではカードに部屋番号を記載すると、紛失した時に泥棒が入るという話だった。
日本では、古い由緒正しき旅館などは未だに大きなキーに部屋番号が書かれている。あれもたぶん「古い由緒正しき」の仕様に入っているのである。温泉に入る際、心配なのでフロントに預けるか、脱衣場で金庫に預けなければならない。これは今時、ちょっと面倒だといつも思う。
自分のキーの束は車のキーも入ってるのでちょっと重いが、それでも昔よりずっとマシだ。そんな風に思っているのである。