このような主訴で来院する人は、更年期以降の女性に多い。とはいえ、頻度は高くはなく、珍しい方ではまだ見かけるくらいである。この患者さんは過去ログで触れたような気がするのだが、たいてい全く同じ内容にはならないのでかまわず続ける。
彼女の主訴は、
テレビの音がうるさすぎて観られない。
車のエンジン音が耳に響いて、碌に外出もできない。
家の中で次第に震えが来て、いてもたってもおれない。
口の中が苦くて食事も十分に摂れない。
といったものであった。このような人は精神科以外では一度、膠原病の精査もしてみるべきだと思う。(年配の女性だけに)。
彼女はかなり遠方から初診しており、いったいなぜなのか聴いた。50㎞くらいあったからである。彼女によると、知り合いが自分の病院で良くなったと言うので受診した言う。その知り合いなる人は何人も僕に紹介しており、しかも悉く良くなっており、上手くいかなかった人は1名もいなかった。50㎞くらい離れているのに、その村から5名以上受診しているのである。
これはありがたいのは確かだが、自分の患者さんが著しく増える要因でもある。しかし断るわけにもいかない。
彼女は未だ精神科にかかったことがなく、新鮮な患者さんである。これは治療後時間がかかりこじれているわけではないことを言っている。
精神科は先手必勝で、最初に主導権を取れないと迷宮に入ることがある。
初診時、彼女には以下のような奇妙な処方をしている。このような処方は滅多にしないが、たぶん最初からよくなったと実感してほしかったからだと思う。これはあまりに遠方から来院していることも関係がある。
リフレックス 7.5㎎
ドグマチール 100㎎
リボトリール 0.5㎎
自分にしては珍しいのはドグマチールをこの年齢の女性に、初診時に処方していること。リスパダールやドグマチールのように、肥満+高プロラクチン血症を引き起こす薬は特に初診時は処方しないようにしている。
ドグマチールは滅多に使わないが、使うとしても短期決戦に構えるようにしている。また、彼女の初診時の主訴は、いかにもドグマチールが効きそうである。彼女の愁訴に噛み合っているし、最初の処方で酷い副作用が出そうにないのも良い。
この処方だが、彼女によれば初回でだいぶん楽になったという。頭の中のキンキン感がとれて、いつも頭がボーとしていたのがなくなったらしい。
その後、順調に良くなり完全に症状が消失した。しかし、今でも1か月に1度は再診している。今の処方は、
リフレックス 7.5㎎
リボトリール 0.5㎎
マイスリー 5㎎
と言った感じである。初診時、彼女はうつはあるにはあったが、結局7.5㎎を超えて使ったことがなかった。彼女は副作用がなく、薬を止める気もないらしいので、そのまま継続している。
おそらく、初診までの日々が地獄のような状態だったからだと思う。
参考