このブログでは、精神科治療における薬物治療や、その他の代替治療についても触れている。今回は、ちょっと変わった話題。
精神科医はそれぞれの向精神薬の薬効や副作用のイメージを持ち、どのように治療を行うかデザインの基礎にしている。
例えば、新患の統合失調症の患者さんを治療することになったとしよう。その患者さんが確実に統合失調症と診断できる場合、初回はともかくいずれ抗精神病薬治療になる可能性が高い。
ここでどの薬を選ぶかは精神科医により個人差があり、この決断に精神科医の力量が反映する。
一般には期待値が高い薬を選ぶはずだが、何らかの理由で最も良さそうな選択肢を取らないこともある。それは、急激な治療が良くないと思える時。
あるいは、強い副作用出る可能性がある時や、家族が反応してその後の治療が続くのか危ぶまれる際もそうである。
一方、同じ統合失調症の人でも緩徐に進行しており、1日や1週間の猶予があってもあまり変わらないと思える時も選択する薬物は変わる。だいたい統合失調症でも発病して10年以上経ってやっと治療を受ける人もいる。
このようなことから、新患には新薬はもちろん使いにくい。書籍やパンフレットなどでしか、薬効、副作用がわからないからである。新しい薬は、既にそのタイプの向精神薬が使われている人の変更で使われることが発売初期は多いのではないかと思う。
そのような期間を経て、ほぼその薬のイメージが掴めると、あまり不安を感じず新患にも処方できるようになる。
向精神薬には爆発力はないが、大怪我もしない薬がある。効かないわけではないが、効果の期待値が低い薬である。これらは、維持療法には使いやすいが、急性期に使うのは十分に緩手になる。
従って、これは多剤併用療法のあり方にも関係するのだが、複数の抗精神病薬を併用するのは、
1、単剤で決着がつかないか効果が不十分。(例えばジプレキサの20㎎で改善しない)
2、忍容性の関係で2剤を使った方がむしろ良いと思える時(例えば、ルーラン+セロクエルなど)
くらいしか思いつかない。単剤で済むことの方が普通は多いのである。したがって、抗精神病薬や抗うつ剤のカテゴリー内で複数の薬になる人は治療が難しい人たちである。
精神科医により向精神薬の選択に差異が出るのは、そのイメージがいくらか異なっているからだと思う。
外来治療をしていて、紹介されてきた患者さんの処方を見たり、院内での他の精神科医の患者さんを1度だけ診る時、それぞれの医師の処方の個性を感じることが多い。
個性がかなり出る薬物を挙げてみた。(よく使われる薬に限定)
ドグマチール
使う医師は非常に使う。僕は滅多に使わない。(理由は過去ログ参照)
リスパダール
これも僕はあまり使わない薬だが、使っている人は間違いなく非常に効いている。リスパダールは今、1㎎を超えて使っている人は1人もいないのではないかと思う。(1名のリスパダールコンスタの患者さんを除く)
ソラナックス
医師によると誰もかれも大量に処方する。僕はほぼ使わない抗不安薬の1つ。しかし転院してきた人たちはそのまま継続処方するので、処方している患者がいないわけではない。自分から処方しないだけ。
パキシル
この薬は僕はたぶん数名しか使っていない。しかし、使っている人のうち、自分の処方した数名は非常に経過が良いので使い続けている。彼ら数名はパキシル以外の薬が不調だったのである。一方、転院して来た人で代替する際に失敗するのを恐れ触らないままの人も数名いる。最近、1名、サインバルタに切り替え全く支障がなく病状も改善したので喜んだ。パキシルが使いにくいのは切り替えが難しいことがあるからである。パキシルはここ5年で全国的にも処方数が減った抗うつ剤の1つだと思う。
エビリファイ
これは適応が広いため、使わない精神科医はたぶんいないと思うが、医師によりイメージがかなり異なる薬ではないかと想像する。自分はかなり使う方だが、評価が非常に高いわけではなく、はまれば魔法のような薬だが、肝心なところで仕事をしないところがかなりある。(これも過去ログ参照)
キリがないので他、省略。