レセプトは大型連休のある5月の上旬を除き、提出期限は概ね決まっているが、外来に関しては既に月末から記載を始めている。それは通院周期からして月末に来ないことがわかっているからである。
レセプト病名は極めて限られた病名しかなく、例えば、セロクエル(クエチアピン)は統合失調症のみである。
いわゆるICDやDSMに記載がある病名数に比し圧倒的に少ない。自立支援法や精神障害者保健福祉手帳ではICD10のコードを記載するようになっているのでかなりの病名が記載可能である。(ただし、精神障害者保健福祉手帳では「適応障害」は不可)
しかし、身体表現性障害(F45)と記載したとしても、これに適応がある薬物などないのである。
従って、実質的に意味があるレセプト病名は極めて少数に限られる。
例えば、うつ状態や躁状態といったレセプト病名は可能だが、厳密には統合失調症様状態はない。したがって、特に高価な抗精神病薬、特に持続性抗精神病薬の注射製剤は、うっかり「統合失調症様状態」と記載すると査定される。(この辺り都道府県によりローカルな相違があると思われる)
これらの査定はコンピュータ化されていっそう酷くなり、例えばアルツハイマー病という主病名の興奮状態にセロクエルを使い、統合失調症と記載するのはあんまりなので、統合失調症様状態と記載すると査定されるという事態になる。
レセプト的に、アルツハイマー型認知症と統合失調症と躁うつ病とうつ状態と不安障害が同時にあるというなんだかわからない精神疾患になってしまうのであった。
これでもコンピュータ的には全然問題がないらしい。20年前なら、レセプトチェックもアナログ的に行われていたので、この病名は酷過ぎると言われ、突返されたりした。
特に統合失調症と躁うつ病を一緒に書いたりすると、非定型精神病とか、統合失調感情障害(F25)くらいに書き換えるように言われていた。ところが、この2つの病名の適応を持つ薬物などないのである。(非定型精神病は厳密にはそれに相当するICD10コードはないが、いくつかそれらしきコードがあるのでそれを記載する。自分はその人の病態にもよるが、F25と記載することが多い)
つまり、操作的診断法がレセプトまで大きく浸食してきているのである。
笑い話として、セロクエルを躁うつ病に処方し海外の処方マニュアルや文献を添付した精神科医がいたらしい。このレセプト病名は酷過ぎると思ったからであろう。
その結果はもちろん却下である。相手がコンピュータだから仕方がないのもあるが、これを再チェックした精神科医も呆れたのではないかと思った。
そういう手順でレセプトが通るなら、大抵の無理も通ることになるからである。