向精神薬では、鎮静、賦活という言葉が良く使われる。かつて、抗精神病薬には鎮静的な薬しかなかった。例えばコントミンなどである。
これは黎明期の精神医療は興奮している人をなんとか抑えることが重要だったからである。何もしない無為な人たちの治療はほとんど考えられていなかった。
2018年3月に薬価削除になるベゲタミンAおよびB錠は、鎮静的な薬物がトリプルで入っている。それは、コントミン、フェノバール、ヒベルナ(プロメタジン)である。ヒベルナは抗パーキンソン薬であるが、抗ヒスタミン薬なので鎮静的薬物である。かつて鎮静剤としてベゲタミンが使われたことは、精神医療の主な目的をよく表していると思う。
ただしセレネースは一般的には鎮静的だが、0.5㎎などの少量を使うと賦活的と言われていた。たいていの旧来の抗精神病薬は、ごく少量だと賦活的に働く傾向がある。
新しい抗精神病薬、いわゆる非定型抗精神病薬は鎮静と賦活の両面を持ち合わせていることが多い。これは無為、自閉などの陰性症状を積極的に改善する点で従来の薬とは異なっており画期的であった。それでもなお、非定型精神病薬も旧来の抗精神病薬と同様、少量賦活、大量鎮静という傾向はみられる。
このような流れから鎮静という用語はともかく、賦活は統合失調症的な病態に使われることが多く、抗うつとは異なる概念である。抗うつ剤はあっても賦活剤と言う精神科用語はない(と思う。たぶん)。
ただし「賦活的」とか「賦活する」という言葉は、近年は統合失調症以外でも使われるようになった。例えば、自閉性スペクトラムやアルツハイマー型認知症に対し、「○○の薬が賦活的に作用した」と言った感じである。この場合でも、精神科医は抗うつとは異なるニュアンスで使っている。
これは統合失調症以外の精神疾患にも薬物的に鎮静せざるを得ない場面があるからである。逆にさまざまな精神疾患で無為、自閉的病態は診られるので、それらを浮上させることを賦活と呼ぶ。
おそらく、精神科での「鎮静」の逆の医療は「賦活」であり、「抗うつ」ではないのだろう。(注:国語的な鎮静の反意語は興奮である)