現在、外来処方では眠剤は2剤までに制限されており、たとえ頓服でも追加できないルールになっている。つまり、既に2剤処方されている人は同じ薬の上限の範囲でしか頓服で服薬できない。
例
ベルソムラ(20) 1T
レンドルミン(0.25) 1T
の処方ではレンドルミン1Tは頓服で追加できる。このようなことから、処方箋で上限まで処方しないことが重要だと思う。
重い不眠症の場合、上限まで処方しても眠れない人たちがいる。その場合、一般には鎮静的な眠剤のカテゴリーに入らない向精神薬で代替される。抗不安薬のデパスがあるが、これなどは眠剤的に処方も可能である。しかし抗不安薬も2剤までに制限されているので、既にソラナックスやワイパックスなど2剤処方されている人にはできない。このような場合、眠剤、抗不安薬以外の向精神薬から選んで追加することになる。
基本的にベンゾジアゼピン系に限らず、睡眠薬、抗不安薬は肥満するものがほとんどない。しかし、これ以外から選ぶとそうでもないのである。
精神科で眠剤の代替薬として処方されるものとして、セロクエル(クエチアピン)、レスリン(トラゾドン)、リフレックスが挙げられる。
ただしセロクエルは抗精神病薬、レスリンとリフレックスは抗うつ剤のカテゴリーに入るため、これらもそれぞれ2剤までである。外来患者ではそれぞれのカテゴリーにわたり数多く処方されている人はあまりいないので、なんとか選べるものである。
セロクエルが選ばれる理由は処方上限が高く統合失調症でない人には少量でもそれなりに睡眠を改善するうえ、抗精神病薬としてはかなりEPSが少ないことが挙げられる。ただし、糖尿病の人たちには処方できない。セロクエルは長期的には大きな肥満要因になる。
レスリンは過去ログでは抗うつ剤としてはパワーがないが、眠剤と思うなら許せるという記載をしている。レスリンは力がないことがここではメリットになる。力がないため無駄な作用がない分、忍容性の低い人にも処方できる。海外の書籍ではレスリンはSSRI的という記載もあるが、実はSSRIに似ていない。SSRIは睡眠構成を悪化させるが、レスリンはそうでもないのである。レスリンは処方上限が高い上に肥満を起こしにくいので抗うつ剤のリフレックスとは大きな相違がある。
現在、リフレックスはその鎮静的な作用のため不眠の重い人たちに眠剤の補助剤として使われているのではないかと思う。現在は「うつの時代」なのでリフレックスは使いやすい(使ったために精神面のマイナスが起こりにくい)。しかしリフレックスはレスリンと同じく抗うつ剤のカテゴリーに入るし、このような使い方をした場合、肥満のデメリットが少なからずある。その理由は、もし3剤目の眠剤が許されているなら、このようなことは生じないからである。医療経済的にも問題がある。セロクエル、レスリンは既にジェネリックが発売されているが、リフレックス、レメロンは先発品しかない。
代替薬として他に利用されていると思われる薬は、コントミン、レボトミンなどの抗精神病薬の少量がある。これらは書籍的には肥満しておかしくない薬だが、セロクエル、リフレックスに比べると断然、肥満しない印象である。これは少量しか処方しないことも関係がある。ただしこれらの薬は、忍容性の低い人にはベンゾジアゼピン系より作用的に重いのが難点である。
他、抗ヒスタミン剤(ヒベルナ、トラベルミン、アタラックスP)もその鎮静作用から代替されることもあると思われる。ただし基本的に抗ヒスタミン剤は毎日使うと肥満要因になる薬である。ドリエル(ジフェンヒドラミン)はOTC医薬品なので、医師の処方箋なしで普通に薬局で買える。しかし、ジフェンヒドラミンは古い第1世代の抗ヒスタミン剤なので肥満要因になるなど欠点が多い。ドリエルを飲むくらいなら、まだベンゾジアゼピンの方が洗練されている。また、既にベンゾジアゼピン系や新しいタイプの眠剤(ベルソムラなど)を服用している人に抗ヒスタミン剤を追加してもたいして効かないこともある。
このようなことから、眠剤2剤までの制約のため何らかの代替薬を処方しようとすると肥満しかねないことがわかる。
参考
外来における向精神薬投与制限
外来処方制限における微妙な向精神薬
2014年10月1日から始まる外来の多剤投与制限の薬物一覧
外来における向精神薬投与制限 Q&A